9回二死満塁、サヨナラの絶好のチャンスで、2球目をまさかの「セーフティーバント」。あっけにとられる「奇策」を敢行した中日・山本泰寛に、観客席からは溜め息が漏れた。打球は阪神投手・桐敷拓馬の前に転がり、本塁に送球。チャンスは潰えた。
このプレーを見た解説者の元中日・山崎武司氏は、首をかしげるばかり。
「これは…何をやってるんですかね。解せないです」
それは中日ファンも同様だった。
「マジで頭が真っ白になった。自分がアウトカウント間違えてるのかと思った」
「もはや八百長を疑うレベル」
ちなみに9回のアウト全てが、バントによるものだった。
井上一樹監督は試合後、山本を擁護した。
「責めるつもりはない。『いける』と思った時には、それは敢行しなさいとは言っている」
とはいえ、最終的に延長11回、代打カリステの犠飛でサヨナラ勝ちしたからこそ言えること。もしそのまま敗戦となっていれば、山本が戦犯に指名されたのは間違いなかろう。
…と、これは4月30日の中日×阪神戦(バンテリンドーム)における、観客席の盛り上がりが最高潮に達した場面での出来事である。
そもそも山本はそれほどバットコントロールがいいとはいえず、仮に一死の場面ならば、意表を突くスクイズの可能性はあったかもしれない。しかし、いくら相手の裏をかく奇策とはいえ、ライン際どころか投手前にコロコロと転がるバントでは、解説者が言葉を失うのも当たり前だ。
山本は阪神時代の2023年に戦力外通告を受けて、中日が獲得。昨年は79試合に出場して打率2割5分の成績を残し、新天地で持ち味を発揮した。今季はここまで長打率3割3厘だっただけに、誰もがバットを思い切り振り抜く姿を想定していた。
井上監督は、こうも言っている。
「ビックリしましたね」
まさかの奇策は山本自身の判断によるものだったわけだが、3塁ランナーの走塁が遅れていたことひとつをとっても、かなり無理のある作戦だった。せめてサインプレーであれば、あるいは3塁線に転がしていれば、「評価」は変わっていたかもしれないが…。
(ケン高田)