初夏の幕張で「新球場計画」が動き出した。海沿いの風を肌で感じながら、マリーンズファンが待ち望む「新生ZOZOマリン」の輪郭が徐々に浮かび上がってきたのだ。ファンや市民を巻き込んだ議論の中心にあるのは「屋根は必要か」というシンプルながらも重要な問題である。
球場を所有する千葉市が公表した「あり方検討基礎調査結果」(2023年7月)によれば、現状と同様の屋外型に建て替えた場合の事業費は、約1700億円。一方、固定式ドームは約2300億円で、開閉式ドームになると約2500億円と試算されている。ドーム化には少なくとも600億円以上の上乗せが必要になることが示された。
幕張の海風を遮りつつ、雨天時でも野球やイベントに利用できるドーム化は魅力的に映るが、そのコストをどう捻出するかが最大の壁となる。
千葉市は現在と同じ屋外型を採用する方針を明らかにしているが、主な理由は行政サイドが事業費を抑制しつつ、野球観戦特化型の「即効性ある改修」を優先したからだ。そこには内外野席の拡充やファンゾーンの整備、バリアフリー強化などに予算を注ぐことで、観客サービスの向上を図りたいという狙いが見える。
球団側の財政事情も無視できない。千葉ロッテマリーンズを運営する株式会社ロッテの2023年度連結売上高は約3098億円にとどまり 、巨額の建設費を球団単体で捻出するのは現実的ではない。命名権料や試合集客増による経済効果で貢献する形をとり、残りは自治体の財政で補うのが現行案の骨格だ。
ではボールパークの先駆け的存在である「エスコンフィールド北海道」(建設費約600億円)はどうだろう。北海道北広島市と日本ハムグループが出資し、公共・民間の協調によって建設費を賄った同球場は、天然温泉やグランピング、球場内ホテルを併設。観戦以外のエンタメ要素を融合させ、日本における「ボールパーク」という新ジャンルを確立させた。 その大胆な試みに比べると、幕張の新球場はあくまでも「野球」をメインに据えた、保守的な印象を拭えない。
一部のファンからは、驚きの意見がある。「本拠地を関西に移転し、選手や吉井理人監督の出身地に合わせた地域密着球団にすべき」というものだ。大阪や兵庫には根強いロッテファンが多く、移転によって入場者数が伸びるならば、収益面でのメリットは確かに大きい。しかし、長年応援してきた地元への責任を考えると、ファンの心を置き去りにする移転は簡単には実現しそうにない。
千葉ロッテの新球場計画は、資金力と事業費抑制のバランスをどう図るかが肝となる。屋外型を選んだのは、予算規模と市民サービス向上の両立を目指した「苦肉の策」と言えるが、真夏の直射日光、海からの強風、あるいは突然のゲリラ豪雨などを考えると、どこまで快適性と利便性を担保できるのか。
ロッテが屋根部分だけでも費用を持てばいい、との指摘もあるが、親会社として日本ハムグループの事業規模と比較してみれば、エスコンフィールドのような全天候型球場を建設するのはかなり困難なことがわかる。
新球場の建設は朗報だが、どこかモヤモヤを感じてしまうのだ。
(ケン高田)