巨人にトレード移籍したリチャードが即スタメン起用され、第2打席で左右間スタンドに飛び込むソロアーチを放った。
その移籍第1号が飛び出す3時間ほど前だった。リチャードを見送った側のソフトバンク・城島健司CBOが今回のトレード劇の舞台裏をこう明かしていた。
「巨人さんからどうしてもリチャードを獲得したいという話が先にあって…」
この交換トレードは、巨人側から持ちかけられたものだという。
しかし他球団の関係者たちは、全く異なる証言をしていた。リチャードが2軍降格となった4月5日以降、「興味はないか?」とトレードを持ちかけたというのだ。それも複数球団に。だが、リチャードが守れるのは三塁か一塁だ。既存選手とポジションが重複するため、それ以上には発展しなかったそうだ。
「同時期、ソフトバンクが左のリリーバーを探している、との情報が交錯していました。松本晴を先発にコンバートする案があって、そうなるとソフトバンクのリリーフ陣で左投手はヘルナンデスだけになってしまいます」(福岡メディア関係者)
巨人はリチャード獲得の見返りに、秋広優人と左腕リリーバーの大江竜聖を放出している。ソフトバンクが本当に欲しかったのは、大江のほうかもしれない。
ソフトバンクがリチャード放出を複数球団に持ちかけていたとする情報の真偽はともかく、今回のトレードで秋広、大江を含めた3人に共通して言われていたのが「環境を変えてやったほうがいい」。決して目新しいものではないが、改めてその意味を聞いてみると、考えさせられることは多い。
「守備でミスをしたり、好機で打席が回ってきても結果を出せないと、首脳陣は『またやった』とマイナスにしか捉えないんです。でも移籍すると先入観がない分、失敗しても深刻な捉え方をしません。長い間、結果を出せない選手が移籍した途端、別人のように活躍するケースが多いのは、新しい首脳陣がニュートラルな状況で見てくれるからです」(球界関係者)
移籍第1号が出た5月13日、リチャードは2イニング目の守備で前進するタイミングが一歩遅れ、広島・菊池涼介の打ち損じを内野安打にしてしまった。ソフトバンク時代だったら「またか。守備がうまくならないな~」と白い目で見られていたことだろう。
しかしリチャードをまだ知らない巨人では「重苦しい雰囲気」にはならなかった。これが第2打席でのホームランにつながったのではないだろうか。
先にトレードを持ちかけたのはソフトバンクか、巨人のどちらなのか。どちらにせよ、リチャードのこれからを思っての交換トレードであったことは、間違いなさそうだ。
(飯山満/スポーツライター)