「バントしに来たんじゃねえんだよ」
セ・パ交流戦の開幕前、巨人・阿部慎之助監督は新加入のリチャードにこう言った。主砲・岡本和真のケガ離脱でチームに大きな一発が求められる中、「打率1割を切っても2軍に落とすつもりはない。自分で学ぶつもりで頑張ってほしい」と期待を寄せていた。
5月にソフトバンクから加入したリチャードは1軍に合流後、すぐに2本塁打を放ち、その圧倒的なパワーを見せつけた。
ところがその後は一転して三振の山を積み上げ、6月12日の古巣ソフトバンク戦では、勝負どころでとうとう致命的なミスを犯してしまう。
6回、増田陸がチーム初安打で出塁した場面。エンドランのサインが出たものの、リチャードはボールになる初球のフォークを見逃し。増田は盗塁死となった。
試合後、攻撃の流れを止めてしまったサイン見落としのリチャードに、阿部監督は怒りの通告。
「(2軍に)落とす。自分が打つ打たないじゃなくて、ボーンヘッドはやっぱり許されない」
だが、これには疑問符が生じる。リチャードは移籍後、45打席で19三振(42.2%)を記録し、「一発の魅力」と「粗さ」が同居する現状を浮き彫りにしている。そんなリチャードにエンドランを命じたのだから、
「いったい何をしたかったのか…」
と、中畑清氏はTOKYO MXの中継解説で首をひねったのだ。KBCで解説を務めた松田宣浩氏は、
「初球を振らせるためのエンドランだったのでは」
と推測している。
リチャードはこの日の第1打席で、大関友久の143キロ「ド真ん中」直球を見逃し、逆に難しいフォークに手を出して空振り三振に倒れている。松田氏の言う「あえて初球を振らせるため」にエンドランを決行した可能性は考えられるが、試みはあえなく失敗に終わった。
阿部監督が求めるのは、純粋な長打力とともに、状況に応じた的確な判断。リチャードにはまず「ボールを見極める」安定感と、「バットに当てる」基本技術の両立が必要となる。
(ケン高田)