まさにリアル「家政婦は見た!」である。江戸時代には「大奥」という、謎に包まれた女性だけの場所があったことは知られているが、その大奥には「水仕女(みずしめ)」「御末女(おすえおんな)」と呼ばれる女性が存在していた。
主な仕事は将軍や上級女中の入浴の世話、トイレ後の処理、部屋の掃除、衣服の洗濯や水汲みなで、大奥では下級の女中である。華やかな着物に身を包み、将軍や正妻の御台所への謁見が許される、御年寄や将軍の身辺の世話、夜の相手をする御中臈にはほど遠い身分だ。
将軍の姫君や大名の正室が大奥を訪れた際には、その客を豪華な駕籠に乗せ、広敷門から大奥内にある御対面所まで担ぐという力仕事も担っていた。
この水仕女たちの名前の記録はほとんど残っていないが、実は侮れない存在だった。なぜなら入浴や排泄といった、人間として最も無防備な状態での将軍の精神状態、健康状態を、誰よりも早く知ることができるからだ。彼女たちはそこで知り得た情報を、上役である奥女中や奥医師たちに流す役目を秘かに任されていた。いわば密偵役、スパイだったのだ。
いつの世でも、情報は大事だ。彼女らが得た情報は、将軍の後継者争いを左右することさえあっただろう。雑用の最中に将軍の目に止まり、側室になったというお知保の方伝説も、大奥には残っている。徳川家重の時代とも家継の時代ともいわれるが、定かではない。
(道嶋慶)