「ユニフォーム、着ないの?」
元中日監督・与田剛氏の率直な問いかけに、野球評論家の上原浩治氏は、はっきりと答えた。
「オファーがないです」
これは先ごろ公開されたYouTubeチャンネル「上原浩治の雑談魂」でのひと幕だ。話題はそのまま、近年の野球現場における「指導者の役割」へと展開していく。
「今は機械化がすごく進んでいて、教えることがない。教える意味がない」
データとAIによる分析が主導となったプロ野球の現状に、上原氏は一定の距離を置く姿勢を見せた。
さらにメジャーリーグ時代の体験として、指導者と選手の関係にアメリカ特有の「リスク」があることにも言及。
「メジャーでは、こちらから言わないと教えてくれない。調子を崩して選手が訴えてきたら嫌だから」
これはメジャーリーグの現場に根付く、慎重な指導文化を象徴する発言だ。コーチやトレーナーの指導行為が選手の故障やパフォーマンス低下につながった場合、法的責任を問われる可能性があるとして、現場では指導において「必要以上に干渉しない」といった配慮が常識となっている。上原氏の発言には、そんな現場の空気感が色濃くにじんでいた。
とはいえ、上原氏が現場復帰を完全に否定しているわけではない。2020年には一部メディアが「巨人からのオファーがあれば、上原氏がコーチとして復帰する可能性がある」と報じており、本人もテレビ番組に出演時、
「今の生活スタイルでは難しい」
と前置きした上で、こう言っている。
「オファーがあれば、考える」
必ずしも現場復帰を否定しているわけではないことがうかがえるのだ。
ここで思い出されるのは、巨人・長嶋茂雄終身名誉監督が急死した際の、松井秀喜氏の言葉だ。いわく「生前に約束した、果たすべきことがある」。
これが巨人監督就任への可能性をにおわせるもの、あるいは打撃コーチ就任の意向だ、との指摘を生んだ。仮に松井氏が将来的に巨人の指揮を執ることになれば、松井氏が信頼を置く上原氏に投手コーチなどのポストを打診する流れは、決して不自然ではない。
その実績は言うまでもなく、日本人で唯一「日米通算100勝、100セーブ、100ホールド」を達成。豊富なマウンド経験に裏打ちされた理論的な視点は、指導者としての大きな武器となるはずだ。その人望は厚く、解説者としての的確なコメントには定評がある。
松井氏の動向や球団の体制が変化すれば、上原氏が再びユニフォームに袖を通す可能性は十分にあろう。そしてその日を心待ちにしているファンは、確実に存在する。
(ケン高田)