政治
Posted on 2025年08月25日 06:00

前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~日本が日本でなくなってしまう危惧~

2025年08月25日 06:00

 評論活動を展開する傍ら全国各地で講演をしている。8月以降も神戸、札幌、東京、岡山、神戸、仙台、大阪、鹿児島、仙台と往来が尽きない。

 先日、大阪での講演後、聴衆の一人だった淑女から質問を受けた。

「山上先生、このままでは日本が日本でなくなってしまうのが本当に心配です」

 深刻な問題提起だった。そして、他の多くの場所でも同様の憂国の声に接してきた。

 大阪の場合、民泊制度を利用した中国からのインバウンド観光客の増大が背景にあるのは明らかだ。東京のタワマン、京都の町家、北海道の水源地が次々に買われていく。観光客で賑わう新幹線に乗れば、日本ならではの清潔と静寂からはおよそかけ離れた世界がくり広げられつつある。凶悪犯罪のニュースも尽きない。

 ところが、永田町の政治家や霞が関の官僚には、こうした草の根レベルの危機感は届いていない。むしろ、インバウンドの更なる振興や「共生社会」の実現に向け、彼らは前のめりだ。

 昨年2月、岸田文雄総理(当時)は、共生社会と人権に関するシンポジウムで、「共生社会の実現は、我々の果たすべき重要な使命」と振りかぶった。その上、「近年、外国にルーツを有する人々が、特定の民族や国籍等に属していることを理由として不当な差別的言動を受ける事案や、偏見等により放火や名誉棄損等の犯罪被害にまで遭う事案が発生しており、『次は自分が被害に遭うのではないか。』と、日々、恐怖を感じながら生活することを余儀なくされている方々もおられます」とまで述べた。

 一国の総理大臣たる者が公の場で、「外国人に対する不当な差別がある」として自国をここまで貶めるのは世界標準を逸脱しており、まさに驚天動地だ。

 リベラルな欧米人が聞きたいことを口走ってしまうのは生半可な戦後知識人の悪弊だ。より大きな問題は、多くの日本国民の間で日増しに膨らむ懸念や危惧に何ら応えることなく、全く逆のベクトルのみを気にかけていることである。

 基本的に移民から成り立っているアメリカ、カナダ、オーストラリアなどと国の成り立ちが異なる日本。そこに欧米と同様の物差しを当てはめることの浅慮。独自の歴史、言語、文化、生活様式を有する日本においては、日本の伝統・風習を尊重しそこに溶け込む努力を重ねる渡来人は歓迎されるべきであるが、そうでない者たちとの共生社会など、分断を招来し国としての一体性を喪失するだけだ。

 中国から帰化した石平参議院議員の近著「帰化人問題」によれば、石平氏も、チベットから日本に帰化したペマ・ギャルボ氏も、日本で暮らす中で「差別はなかった」と明言している。しかるに、岸田総理の断定的な決めつけは一体どこから来るのか!

 総理がこんな姿勢だから、その後バイデン米国大統領(当時)から、「米国経済は移民を歓迎しているから繁栄している。」とした上で、日本は「外国人嫌いで移民を望んでいないから」問題を抱えており、その点で、インドのみならず中国やロシアと同列だとされてしまった。

 同盟国たるアメリカの首脳から、ここまで独断と偏見に満ちた断定を浴びせられた記憶がない。岸田・バイデンの蜜月とはバイデンの言いつけを忠実に聞くためのものだったのか?なぜ総理本人から不快感の一つも表明しなかったのか?

 こうしたやり取りを想起するにつれ、国民レベルでの危惧の高まりと政府の鈍感極まる対応、その当然の帰結としての岩盤保守層の与党離れの構図が明確に理解できる次第である。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961・年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年・外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、ワシントン、香港、ジュネーブで在勤。北米二課長、条約課長の後、2007年・茨城県警本部警務部長を経て、09年・在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年・国際情報統括官、経済局長を歴任。20年・駐豪大使に就任。23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」(徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)、「官民軍インテリジェンス」(ワニブックス)等がある。

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