政治
Posted on 2025年08月11日 06:00

前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~百害あって一利ない「石破談話」~

2025年08月11日 06:00

 石破総理の戦後80年談話への拘りが消えない。終戦記念日の8月15日や降伏文書に署名した9月2日の発出は見送ったとの報道が流れたものの、総理自らが「新聞を信じるな」と周囲に述べているとの情報に接した。退任するまでいずれの日であっても突如ステルス的に出してやろうとの意気込みなのか?異様なまでの執着だ。

 筆者の40年間に及んだ外交官人生中、歴史問題への対応には大きなエネルギーを注いできた。駐豪大使時代も拙著「歴史戦と外交戦」で記したとおり、反日勢力が仕掛けてくる認知戦への対応に追われた。そこで、なぜ「石破談話」が百害あって一利ないのか、整理して述べよう。

 第一に、死に体の政権が何を言おうが、無責任の極みだからだ。

 衆議院選、都議選、参議院選と三度の選挙で退陣勧告を突き付けられた四面楚歌の政権が退陣間際に発出したところで、責任をもってフォローできるわけはない。そんな代物を国際社会の大半は無視するだろう。切り取って自分勝手に使うのは歴史カードの振りかざしを止めない中国共産党、北朝鮮労働党、韓国左派、プーチンのロシア、左ぶれした欧米メディアに限られよう。日本国民、そして次期政権にとってこんな迷惑な話はない。

 第二に、謝罪は十分に行われたからだ。「靖國神社に祀られている英霊は中国を侵略した」などと述べたとされる石破総理の国家観、歴史観にかんがみれば、談話が謝罪を繰り返すのは明白だ。

 戦後50年の村山談話に始まった謝罪。安倍内閣をも含む歴代内閣が受け継ぐとしてきた談話。もはや繰り返す必要などどこにもない。東南アジアの何人ものリーダーが述べてきたとおりだ。

 第三に、謝罪は謝罪だけで終わらないからだ。「謝れば済む」と考えるのは日本人のナイーブな性癖。国際社会では、謝罪は金目の話に直結する。謝ったら補償なのだ。もはや「性奴隷」説が完膚なきまでに否定された慰安婦問題はともかく、長崎端島、佐渡金山を巡るやり取りを踏まえれば、徴用工の問題について「強制労働」などとして補償を求める声は必ずや高まろう。請求権の相互放棄を確保して戦後処理を進めてきた先人たちの血のにじむ努力を石破総理が踏みにじることとなるのだ。

 第四に、謝罪は論点ずらしにつながるからだ。現下の国際社会が直面する問題は、80余年前に大日本帝国が何をしたかではない。習近平の中華人民共和国が南シナ海、尖閣諸島周辺、台湾海峡で今何をしているかであり、プーチンのロシアと金正恩の北朝鮮がウクライナで今何をしているかだ。実際、来月には北京の天安門広場で抗日戦争勝利80周年記念の大軍事パレードが開催予定であり、プーチンもトランプも招待されている由だ。こんな時代錯誤の露払いの役回りを石破談話は担うこととなろう。

 第五に、石破談話は戦後70年の安倍談話の効用を甚だしく損なうからだ。「あの戦争には何ら関わりのない私たちの子や孫、そしてその先の世代の子供たちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」とのメッセージは説得力に富んでいた。もう謝罪は止めようとの日本のリーダーの重いメッセージを国際社会は受け入れたのだ。なのに、なぜ蒸し返すのか?誰を喜ばせたいのか?

 安倍憎しの思いから来る自己満足の談話であれば、総理を退いてからやって欲しい。その際、私財を投げうって補償に努めないと感謝はされまい。鳩山由紀夫氏と共に中国大陸や朝鮮半島を行脚したら、さぞかし絵になることだろう。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961・年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年・外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、2000年・ジュネーブ国際機関日本政府代表部参事官、07年・茨城県警本部警務部長を経て、09年・在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年・国際情報統括官、経済局長などを歴任。20年・駐豪大使に就任。23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「南半球便り」「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「歴史戦と外交戦」(ワニブックス)、「超辛口!『日中外交』」(Hanada新書)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」(徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)等がある。

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