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記事全文を読む→生誕90年 立川談志と最後の弟子〈初めて書く「イリュージョン」な日々〉(10)イリュージョンとは何だったか
令和8年3月1日付で真打になる。名前も改め「立川談寛(たてかわだんかん)」を名乗ることとなった。平成20(2008)年の入門なので、かれこれ18年。おそらく師匠には「遅いよ馬鹿野郎」と怒られることだろうが、まあ私がのんびり屋なのだから仕方がないし、何より師匠が死んじゃうのがいけないんだ。たった3年しか談志についていないので、談志と長く時間を共有したであろう兄弟子達を羨ましく思うこともある。
「何言ってんだ、若い頃の談志は酷かったんだぞ」と兄弟子達は言うだろうが、その過酷さも味わってみたかった。
まだ談志が元気な頃、いつものように根津のご自宅へお迎えに上がった。
「おはようございます」
「おう」
部屋で二人きり、いつもの贅沢な時間。
「イリュージョンってのはな、上手くないとダメだ」
「はい」
「はい」とは言ったものの、イリュージョンと上手さにどう関係があるのか、この時はまだわかっていなかった。発想や想像力によるものだと考えていたので、上手い下手ではないのではないかとも思っていた。だが今になってある程度わかるようになった。夢でおならを踏み潰すような、想像力で生み出した突飛な現象を言葉でお客様に伝え、なおかつ頭の中に思い描いてもらうには技術が必要だ。間の取り方、言葉のチョイス、音の使い方、力の入れ方と抜き方。イリュージョンにはそれらすべてが必要になってくる。
落語の世界に出てくる八っつぁん熊さんと違い、創作で生み出した“伊勢海老の人魚”や“鼻を登る登山家”のようなキャラクターは、想像してもらうのに工夫がいる。おそらくそういうことを言っていたのだろう。
また、イリュージョンでも色々種類がある。
「頭の中めちゃくちゃなんだ、猫が横切ってな、しょうがねえから二毛作始めたんだ、そしたら市長が怒ったからエプロンしなきゃって思ったんだけど、手紙書いてないから火災保険入ったんだ、わかるか」
「はい」
何もわかりはしないけど、やりたいことはよくわかった。談志は言葉のイリュージョンに何かを見つけたのだ。
人間の脳みそは年齢を重ねるほど衰えていく。多くの人は親父ギャグを止められなくなるし、芸人だって技術で誤魔化そうとする。そんな中、技術ではなく脳の使い方で抗あらがったのは立川談志のみだと思っている。
「お前はイリュージョンがわかるからな」
ある日そんな言葉をいただいた。常日頃の言動と落語を観て、そう感じてくれたのだろう。
ちなみに、私がやっているのは言葉のイリュージョンではない。言葉と絵と展開のイリュージョンだ。気になった方はぜひ私の創作落語を聴いてみてほしい。と言いながら普通に古典やってる日もある。うーん。
立川談吉(たてかわ・だんきち)1981年12月14日生まれ。北海道帯広市出身。2008年3月に立川談志に入門。11年6月に二ツ目昇進。12年4月に立川左談次門下へ。18年7月に立川談修門下へ。26年3月1日に真打昇進「立川談寛」襲名予定。
写真/産経ビジュアル
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