政治
Posted on 2026年03月11日 07:30

前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~高市早苗が「トランプのイラン爆撃」を「国際法違反」とは言わない「もっともな3つの根拠」~

2026年03月11日 07:30

 イラン最高指導者のハメネイを殺害した今トランプ米国政権によるイラン攻撃について、日本国内では、
「国際法違反ではないか」
「アメリカがこんなことをやっていては、ロシアのウクライナ侵略、中国の台湾併合の企てを非難できない。ダブルスタンダードも甚だしい」
「日本政府もアメリカの行為を非難するべきだ」
 との指摘が聞こえる。元自民党閣僚、外務省OBの中にも、そのような言辞を吐く向きがあるようだ。

 私は外務省の条約課長、国際法局審議官ポストなどを務め、長年にわたって実務の場で国際法に携わってきた。そんな立場からは、過去に在イラン米国大使館員人質事件、ヒズボラなどの代理勢力を使っての在タンザニア・ケニアの米国大使館に対するテロ事件、さらには現在進行中のイランの核・ミサイル開発等といった積み重ねがあったにせよ、2026年3月時点でアメリカに対するイランの武力攻撃が差し迫っていたとして自衛権の行使を正当化するのは至難の技だ、という議論は理解できる。

 同時に指摘しておくべきは、アメリカの行為が国際法上の問題を抱えているものであるとして、それを日本政府自らが公の場で中国やロシアと口を揃えて批判するのは、別次元の問題だということだ。
 高市政権は公の場で法的評価を下すことを避けている。日本の国益を第一に考えた、正しい対応である。それはなぜか、順を追って説明しよう。

 第一に、ロシアのたび重なるウクライナ侵略とは、問題の性質が全く異なる。ロシアはウクライナという、ロシア自身も国家承認した主権国家の領土を侵略し、我がものにしようとしている。
 のみならず、ウクライナという国家の存在自体を否定する発言を、何度も繰り返してきている。主権国家が併存すべき国際社会で最重要の「主権」を侵害、「領土保全」に真っ向から背馳し、「政治的独立」を否定する行為に及んでいる。
 翻ってアメリカ政府は、イランの核・ミサイル開発計画を止める、テロ支援を止めさせる、体制転換を図ることが目的だと説明しているが、明確なのはイランを米国の領土にしようなどとは考えていないことだ。

 第二に「ダブルスタンダード」を声高に言うなら、なぜイランの行為も国際法に照らして問題だと言わないのか。
 シリアのアサド政権、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イエメンのフ―シー派といった代理勢力を煽動し、中東地域、さらには世界でのテロ行為を支援してきたのはどこの国か。
 NPT上の非核兵器国でありながら、核兵器転用の疑義を当然に招くウラン濃縮を執拗に追求してきたのはどこの国か。
 平和裡に政治的意見を表明したデモ隊を暴力で鎮圧し、数千名と言われる死者を出したのはどこの国か。
 それだけではない。イスラエル軍と米軍の攻撃に反撃するなら、なぜ、アラブ首長国連邦、バーレーン、オマーン、カタール、サウジアラビア等の米軍基地だけでなく、ガスや石油施設まで攻撃するのか。これこそ、自衛権ではとうてい正当化できない行為ではないのか。

 第三に、国際法至上主義者にはこう言おう。そもそも国際社会では、国際法違反は枚挙に暇がない。遺憾ながら、それが現実だ。国内法の世界と違って、強制的な執行力がないためである。日本こそが身に染みてきたはずだろう。
 ダブルスタンダードと言い募る論者ほど、日本が辛酸をなめつつ目の当たりにしてきた国際法違反(広島・長崎原爆投下、東京裁判、北方領土の不法占拠、中国による南シナ海仲裁判断無視・日本産水産物の全面禁輸、米国による関税引き上げなど)を等閑視する性向が看取されるとしたら、言い過ぎだろうか。

 結論を言えば、大事なのは「国際法違反か」「国際法に合致しているか」だけではない。それは事象を判断する際の重要な物差しだが、全てではない。より重要なのは、日本の国益に照らして是か非かという点だ。
 ハメネイのような人物が率いるイスラム原理主義政権が存続し、時間稼ぎをしながら核・ミサイル開発を進め、1991年に筑波大学の五十嵐一助教授を白昼、大学キャンパスで惨殺したようなテロ、威嚇行為の対外輸出を図ることが、日本にとっていいことなのか。
 それこそが問われるべきなのだ。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年に外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、ワシントン、香港、ジュネーブで在勤。北米二課長、条約課長の後、2007年に茨城県警本部警務部長を経て、09年に在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年に国際情報統括官、経済局長を歴任。20年に駐豪大使に就任し、23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」(徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)、「官民軍インテリジェンス」(ワニブックス)、「拝米という病」(ワック)などがある。

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