いまわの際の言葉、それが遺言である。それは、残されし者へのラストメッセージ。そこには、死者の生きざま、そして苦悩までもが読み取れる。有名人たちが人生の幕引きを託したその名言とは――。
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〈自分が死んだら、誕生日みたいにケーキにロウソクを立てて送り出してよ。この世は仮の世で、あの世が本当の姿。めでたい日なんだからさ〉
独自の死生観を持っていた俳優の丹波哲郎(享年84)。「霊界の宣伝マン」を自認していただけに、息子に託した遺言は実に丹波らしいものだった。 06年9月24日に肺炎でその生涯を閉じると、30日に行われた葬儀では遺言どおりの葬儀が明るく営まれた。
丹波氏と対照的なのが、映画「男はつらいよ」の寅さん役で人気を博した渥美清(享年68)だ。ガンを患い、長い闘病生活の末、96年8月4日に息を引き取った。残された遺言には、こうあった。
〈俺のやせ細った死に顔を他人に見せたくない。骨にしてから世間に知らせてほしい〉
寅さんのイメージを大切にした渥美らしいみごとな最期である。
遺言には、その人柄が実によく表われている。
作家、詩人、映画監督など、生前マルチな才能を発揮し、活躍した寺山修司氏(享年47)は肝硬変で入院し、83年5月にその生涯を閉じた。その1年前に発表された遺稿にこう記されていた。
〈不完全な死体として生まれ 何十年もかかって 完全な死体になるのである〉
文学的な表現で、みずからの死を評している。
誠実な人柄で人気だった逸見政孝アナ(享年48)の遺書は、息子への愛情にあふれている。
〈パパにとって太郎の激励は、ボストンで将来の目標に向かって一生懸命勉強することである〉
家では頑固オヤジを貫いていた逸見アナ。息子とはいさかいが絶えなかったという。その後、父と同じ世界に身を投じた息子を晴恵夫人(享年61)とともに、逸見アナは草葉の陰で見守っていることだろう。
みずから命を絶った者たちが最後に残した言葉は心の叫びにも近い。そして計り知れない闇が広がっている。
猟銃自殺で人生の幕を下ろした田宮二郎(享年43)の死は世間に衝撃を与えた。
〈病で倒れたと思ってほしい。事実、病なのかもしれない。そう思って、諦めてほしい〉
生前、田宮は躁鬱病に苦しんでおり、遺書にはその病に苦しむ様がにじみ出ている。 〈あこがれていたのに、最近冷たくされて悲しい。勝手なことしてすみません〉
そう遺書を残し、所属事務所の屋上から飛び降りた岡田有希子(享年18)。この自殺は社会問題に発展。その〈あこがれ〉の相手と目されていた峰岸徹も堅く口を閉ざしたまま、08年に65歳で亡くなっている。自殺の動機は、いまだ不明のままなのだ。
笑いの道に生きる者たちの遺言もまた、含蓄がある。最後まで破天荒な生きざまを貫いた横山やすし(享年51)。
96年1月、アルコール性肝硬変で不帰の人となった彼には、娘の木村ひかり(31)に宛てた遺言がある。
〈漫才だけはするな〉 死後、遺言を守っていたひかりだが、宮川大助・花子の娘・松下さゆみと出会い、コンビを結成。「七光り」をネタに自虐的な笑いを取っている。親の心子知らず。いや、蛙の子は蛙ということかもしれない。
昨年11月に喉頭ガンで亡くなった立川談志(享年75)。弟子たちに残した最後の言葉は、なんと放送禁止の4文字だった。話すことができない談志はなじみのバーに弟子を集め、女性器を表す言葉を大書したというのだ。ユーモアを貫いた最期はアッパレである。
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