スポーツ
Posted on 2012年06月01日 10:59

北島康介「29歳の進化」 「ライバルの前で記録を出しプレッシャーで潰す」(4)

2012年06月01日 10:59

「チョー気持ちいい」の真意

 03年世界選手権までは、全てがシナリオどおりに進んだ。だがアテネへ向けたトレーニングを始めると誤算が続出し始めた。12月のフラッグスタッフ合宿で膝に痛みが出た。さらには04年1月のワールドカップ遠征では、肘までが痛みだしたのだ。
 その影響もあり、代表選考会だった4月の日本選手権では泳ぎを崩していた。五輪代表にはなったが、100メートルは1分00秒39で200メートルは2分10秒70。前年の世界選手権で見せた勢いはなかった。
 5月にグラナダ合宿へ行ってからはさらに泳ぎが崩れ、深刻な事態になった。合宿の仕上げとして出場したヨーロッパグランプリは、第1戦のスペイン大会こそ100メートルで勝ったが、第2戦のローマ大会では焦った泳ぎになってしまい100メートル、200メートルとも敗れたのだ。
 帰国するとそれに追い打ちをかけることが起きた。五輪開幕まで2カ月を切った6月中旬に左膝にできた腫瘍を潰すと、痛みが出てしまって平泳ぎを泳げない状態になったのだ。
 6月30日には予定どおりにグラナダ合宿へ出発した。だが合宿ではなかなか体調が上がらない。そんな時にアメリカのハンセンが、100メートル59秒30、200メートル2分09秒04の世界記録を出したというニュースが届いた。ライバルにプレッシャーを与えて優位に戦おうとした構想が、足元からガラガラ崩れたのだ。
 それでも北島は、ハンセンの世界記録を刺激にして、五輪開幕30日を切ってから少しずつ状態を上げた。そして大会直前には、
「59秒台後半の勝負に持ち込めば戦える」というところまでに戻したのだ。
 勝負をかけたアテネ五輪。北島は最初の100メートルで戦略的な戦いをした。ハンセンにプレッシャーをかけようと、最初の予選をいきなり1分00秒03の好タイムで泳いだのだ。
 それがボディブローのようにハンセンの心をジワジワと蝕む。決勝ではハンセンの武器である前半のスピードを鈍らせて1分0秒台の勝負に持ち込み、1分00秒08で優勝したのだ。
 テレビカメラの前で「チョー気持ちいい」と明るく叫んだ北島だが、観客席裏にあるミックスゾーンでは、記者を前にボロボロ涙を流した。「ひと言でも弱音を吐いたら、そこで負けてしまうのが五輪という大会」と思い、必死に弱音を吐かずにいた時の苦しさを思い出していたからだ。
 次の200メートルでは、戦意を喪失したハンセンはもう敵ではなかった。2位のギュルタ(ハンガリー)に1秒以上の差をつける2分09秒44で圧勝した。
 歴史に残る平泳ぎ2冠。それは北島の勝負師としての強さの証しだった。

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    エンタメ
    2026年03月09日 06:30

    日本にも「バベルの塔」が実在していたことを知っているだろうか。バベルの塔は「旧約聖書」の「創世記」に登場する、人間が天に届く塔を築こうとして神の怒りに触れ、破壊されてしまった伝説の塔である。「馬鹿と煙は高いところに登る」という言葉があるが、...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    社会
    2026年03月11日 06:45

    スマホの通知に追われる日常から、少し距離を置く。そんな「デジタルデトックス」では、若者が編み物や日記、フィルムカメラといったアナログ趣味にハマるケースが報告されているが、この流れは中年層にもじわじわと波及している。その背景にあるのは、仕事で...

    記事全文を読む→
    芸能
    2026年03月13日 14:30

    音楽ライブチケットの高額転売をめぐり、旧ジャニーズ事務所の人気アイドルが所属するSTARTO ENTERTAINMENTのライブ主催会社が、転売サイト大手「チケット流通センター」の運営会社と、高額転売を繰り返したとされる東京都内の男性1人を...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    注目キーワード

    人気記事

    1. 1
    2. 2
    3. 3
    4. 4
    5. 5
    6. 6
    7. 7
    8. 8
    9. 9
    10. 10
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/3/17発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク