エンタメ

死んでも「アイツ」に勝ちたかった④ 松野明美(2)

軽い気持ちで出席した会見

 第3の座を巡る報道が激化する中、陸連には松野の出場を求める何百もの嘆願書、署名、ファクスが連日届いた。当時のスポーツ紙を見ると、有森側の好調さをうかがわせる情報は頻繁に伝えられるが、松野側はかたくななまでに沈黙を守り続けていた。ところが、マラソン代表を決定する陸連理事会の4日前、松野の東京後援会の三善信一会長(当時はリコー会長)が強化本部長に面会を申し入れたのだ。そして2日前には、彼女が所属する「ニコニコドー」の岡田正裕監督が「沈黙は金(メダル)なり、と思って取材を断っていた。しかし、松野は走る気がないんじゃないかとの問い合わせもあり、メダルを目指している決意をはっきりと言ったほうがいいだろうと思ったんです」と話し、異例の会見を開いた。

 あの日、岡田監督に指示された私は、顔見知りのローカル紙記者の方々や地元・熊本のテレビ局のカメラだけが並んでいるのだろうと、軽い気持ちで出席したんです。昔から私の取材嫌いは有名でしたから、「ちゃんと練習していますよ」という報告会のようなものだと思っていた。だって、マスコミの取材を受けたからといって、タイムが伸びるわけじゃないし、それよりも体を休めたほうがいいですからね。それなのに、いざ会見に出席したら、いつの間にかこんな大騒ぎになっていて‥‥。

 会見でアピールも何も、私の心はすでにバルセロナでしたからね。選考会でマークしたタイムが全てだろうと思ってましたから、(代表選考レースが終わった時点で)テレビも新聞もほとんど見ず、練習に明け暮れる生活でした。

 記者の方から「(本番の)暑さや坂道での強さがポイントになるが」と聞かれても、「暑さは大好き。熊本の暑さの中で練習してきました」と答えたし、「坂も阿蘇のすごい坂道で50㌔走をしてきたから自信はあります」と言いました。でも、返答しながら、それが本当に選考のポイントになるのかという疑問はありました。どうやって評価するんだろう。それほど重要なら、それに適した選考レースを指定するべきなんじゃないかなと思ってましたからね。

 そのみなぎる自信は、「今回がダメだったらアトランタを目指すのか」という質問のリアクションにもうかがえた。松野は「えっ!?」と絶句し、質問者を見続けたまま、言葉を失ったのだ。

 それ、覚えてますよ。しっかりと(記事に)残っているんですね(笑)。

 何度も言いますが、私は五輪に出場して、金メダルを獲るつもりでいました。落選のことなんて少しも考えていませんでした。ちょっと言葉は悪いですが、はっきり言って有森さんのことは眼中になかった。

 87年に日本陸上界に彗星のように現れたルーキー・松野。全日本実業団対抗女子駅伝に初出場すると、最長の4区で、当時の女子マラソン界の第一人者だった増田明美ら12人を驚異的なスピードであっさりと抜き去る。熊本のスーパーマーケット「ニコニコドー」という印象的な会社名やショッキング・ピンクのユニホームも加わり、瞬く間に全国区の人気を博した。88年のソウル五輪に1万㍍の日本代表として出場し、日本新記録を樹立。名実ともに日本女子長距離界のエースとして期待されていた。

 一方の有森は、学生時代から全国レベルには程遠い選手だった。そんな2人は、89年に初めて顔を合わせている。

 当時の有森さんが所属していた実業団チームと、熊本で合同合宿をしたんです。そこで初めてお会いしたんですが、故障中で別メニューの練習をしていたと思います。ですから、挨拶程度の会話しか交わしていませんね。

カテゴリー: エンタメ   タグ:   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
JR東日本に続いて西と四国も!「列車内映像」使用NG拡大で「バスVS鉄道旅」番組はもう作れなくなる
2
大谷翔平が「嘘つき」と断言した元通訳・水原一平の潜伏先は「ギャンブル中毒の矯正施設」か
3
【ボクシング】井上尚弥「3階級4団体統一は可能なのか」に畑山隆則の見解は「ヤバイんじゃないか」
4
リストラされる過去の遺物「芸能レポーター」井上公造が「じゅん散歩」に映り込んだのは本当に偶然なのか
5
舟木一夫「2年待ってくれと息子と約束した」/テリー伊藤対談(3)