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記事全文を読む→プロ野球「師弟の絆」裏物語 第1回イチローと仰木彬の「唯一無二」(3)「200本安打」へのこだわり
そして94年、仰木が期待したとおり、イチローは“大化け”する。日本プロ野球史上初の200本安打を達成し、一躍、時代の寵児となった。その200本安打達成についての仰木のコメントは、イチローを奮い立たせるのに十分であった。
「200本安打を打ったことはすごいけど、優勝争いから脱落したあとでも頑張れたのがすごいことです」
仰木は個々の選手の「集中力」を何よりも重視した。優勝争いの緊張感の中では、大記録へのモチベーションが相乗効果となって、集中力を発揮することができる。しかし、チームが優勝争いから脱落すれば、そのまま打席への集中力もそがれることになりかねない。にもかかわらず、イチローは最後までモチベーションを維持して、大記録を成し遂げた。その精神力を仰木は評価したのだ。
「仰木さんという人は、勝負の中に入ってしまうと周囲がまったく見えなくなるほど集中する。ベンチにいても『今どうなっているの?』と周囲に聞いてくるほどなんだ。あの集中力のすごさはイチローの集中力に通じるものがあったのではないか」
89年に仰木の下でピッチングコーチをして優勝に貢献した権藤博(現中日投手コーチ)は、仰木の集中力をこう評価する。
部下は上司の感性に触れた時、心を開くと言われるが、イチローは200本安打の評価よりもそれを維持した「集中力」を評価してくれた仰木に段々と傾倒していったのである。
実際、それによって評価を得たイチローは「200」という数字にこだわり続けている。それは自分を最初に評価してくれた仰木への約束でもあったかのように、200本安打にこだわり続けてきた。
それはメジャー入りしたあともまったく変わることがなかった。弱小球団のマリナーズにあって優勝とまったく関係ないところで、モチベーションを維持してきたのは、入団以来続けてきた200本安打へのこだわりに他ならない。
「緊張感のないチームにあって、それを維持していくのはどれほど大変なことか、勢いで打てるものではないはず」
と仰木は語っていたが、これほど、イチローの支えになった言葉はなかったはずだ。
ところが昨年、イチローは「200本安打」という記録がとだえて以来、モチベーションの維持に苦慮した。そこで彼を慕っていた川崎宗則を呼び込み、新たな刺激を得た。
だが、それでも結果として数字には結び付かなかった。その時にイチローが出した結論は、メジャー行きの時とまったく同じであった。
「追い詰められてきた時に原点に戻れって言うけど、困ったならば最初に戻ればいい」
メジャーに旅立つ前、イチローはそんな話をした。今回のヤンキースへのトレード志願の際にも、イチローの記憶の引き出しの中に、確実に仰木の言葉が入っていたからこその決断だったと言えよう。
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