芸能

ビートたけしの名言集「湯治に出かけた『怪しい温泉場』の思い出」

 13年ほど前、いたって健康体な殿と、「物は試しで」と、秋田の温泉場に、湯治を目的とした3泊4日のプライベート旅行を決行したことがありました。危惧したドタキャンもなく、新幹線に乗り込んだ殿は、

「本当に効くのか?」

「どうせお迎えの近い後期高齢者ばっかりだろ。まー俺も十分高齢者だけどな」

「そーいえば、俺は年金もらえるのか?」

 等々、上機嫌で、行きの車中、寝ることなく、じょう舌にしゃべっていました。

 電車と自動車に揺られて約4時間半。圧倒的山奥のさらに奥に目的の温泉場はあり、モクモクと湯気がたちこめる中、1軒だけある旅館は1年先まで予約が取れないため、高齢者たちがその旅館の周囲にテントを張って湯治に来ている光景は、“あの世の入口”を連想させ、見た目一発で引きつけられる、なかなか幻想的な温泉場でした。地熱が高い岩場にゴザを敷いて、静かに湯治にいそしむ高齢者の姿を目にした殿は、

「いいな! もう姥捨て山だな。あのまま干からびて立派なミイラになるんだろうな」

 と、さっそく得意の毒ガスを炸裂させていました。

 で、旅館にチェックインして早々と湯につかると、

「これは効きそうだな。帰る頃にはきっとあそこの皮がズルむけになってるな」

「タマキンがでかくなりすぎてよ、帰りの新幹線は子供一人分の追加料金を請求されるな」

 等々、“効きそうだが、何だか怪しい”といった感想を漏らすのでした。

 しかし2日目の朝、湯につかった殿は、

「でもあれだな。昨日より何か体の調子がいい気がするな」

 と、お湯の効能を信じる発言をつぶやきだしたのです。この時、〈ずいぶん早く効くな〉と、わたくしが心の中でツッコんだのは言うまでもございません。

 で、そんな湯治を繰り返し、夜は何もやることがなく、殿とダラダラしゃべっていると、持参した12色のカラーマジックペンをおもむろに取りだした殿は、

「北郷、ちょっと動くな」

 そう指示を出すと、ハガキ大の白いメモ用紙に、わたくしの似顔絵をつらつらと描きだしたのです。時間にして20分ほど。

「どうだ。いいだろう」

 そう言うと、殿は描きあげた似顔絵を“やるよ”といった感じで、渡してきたのでした。この時、“北野武の絵を欲しがってる人は結構いるぞ。本当にもらっていいのか!?

 しかし秋田の山奥まで来てよかった!”素直にそう思いました。

 そして湯治最終日。朝、お湯につかった殿は、

「うん。やっぱり体が何か軽いな。これ効いてるな」

 と、掛け値なしに湯を絶賛され、秋田を後にしたのです。それから4日後。湯治以来で殿にお会いすると、

「北郷、あの怪しい温泉場で描いた俺の絵、あれなくすなよ。個展やる時に借りるかもしれないからよ」

 と、“やっぱりあそこのお湯は怪しい”といった元の思考に、しっかりと戻っていたのでした。

ビートたけしが責任編集長を務める有料ネットマガジン「お笑いKGB」好評配信中!

http://www.owarai-kgb.jp/

◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!

カテゴリー: 芸能   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
あの「号泣県議」野々村竜太郎が「仰天新ビジネス」開始!「30日間5万円コース」の中身
2
3Aで好投してもメジャー昇格が難しい…藤浪晋太郎に立ちはだかるマイナーリーグの「不文律」
3
「コーチに無断でフォーム改造⇒大失敗」2軍のドン底に沈んだ阪神・湯浅京己のボコボコ地獄
4
フジテレビ・井上清華アナ「治らない顎関節症」と「致死量ストレス」の不穏な関係
5
【大騒動】楽天・田中将大が投げられない!術後「容体不良説」も出た「斎藤佑樹との立場逆転」