社会

2万円を1000万円にした津波被災者の馬券復興(1)

09年に馬券スタイルを一新

 10月7日に東京競馬場で行われたGⅡレース「毎日王冠」。本誌競馬コラムでおなじみの亀谷敬正氏の推奨馬ジャスタウェイが12番人気で2着し、馬連が万馬券、3連単は32万円オーバーの高配当となった。後日、亀谷氏と担当者が競馬談議した際、亀谷氏からこんな話題が飛び出した。

「ボクの親しい双馬毅という予想家の知り合いで、岩手県の小坂真一さんという人も毎日王冠で150万円を払い戻したらしいです。実はその彼、3年半ぐらいで月2万円のお小遣いからスタートした口座が1000万円を突破したということで、双馬クンの著書『2万円を競馬で1千万円にできる人・できない人』(KKベストセラーズ)の中で、紹介しているんですよね」

 さっそく前出の書籍「2万円を─」を確認、大いに興味を持つこととなったわけだ。しかし、先に断っておくが、この話は決して夢のような一獲千金ストーリーではない。現在、31歳のサラリーマンの小坂氏は、4年ほど前までは、どこにでもいる馬券の「負け組」だった。毎月のように小遣いの中から2万円ほどを入金し続け、08年の回収率は57%だった。

 だが、09年に一念発起し、みずからの馬券購入スタイルを改めた。その方法論は後半で小坂氏から解説をいただくが、スタート時は1レースに3000円を目安に1日6レースほどに挑むというステップ方式。資金が10万円を超えるまでは、絶対に購入額をアップさせないことが鉄則。1年間で約600レース、GⅠレースだろうが、未勝利戦だろうが、常に地道にコツコツと人気薄の軸馬から馬連と3連複で網を張り続ける。その中で数回あるかないかの絶好機に3連単を少しだけ絡め、大きく残高を増やす作戦だ。

 とはいえ、この地道にコツコツこそが難しい。的中すれば調子に乗って3連単で一撃を狙いたくなるし、逆にスランプだって待っている。家庭や仕事の事情もあるだろう。実は小坂氏自身、昨年のあの東日本大震災で被災しているのだ。

「他の被災者に申し訳ない」

 あの忘れることのできない、3・11を小坂氏が振り返る。

「私はひとり、岩手県の山間部を車で走ってました。午後3時前、小さな交差点が近づいてきたところで、凄まじいばかりの揺れを感じ、これは『危ない!』とすぐに停車させました。目の前の信号機は倒れそうなくらいに揺れて、すぐにランプが消えたんです。後続車も対向車もなく、いつ道路脇の木々や電柱が倒れてくるかもしれない中、安全そうな場所を探しました。不安を超えた恐怖を初めて感じました」

 携帯メールもつながらない恐怖の中、唯一の情報源となったカーラジオから「釜石港に6メートルの津波が来た」という放送を聴き、「あっ、その程度か」と、根拠もなく少し楽観的になったことを覚えているという。

「まさか、街がのみ込まれるなんて‥‥」(小坂氏)

 帰社の途中、自宅に寄るが妻や子供の姿はなく、最寄りの避難所に向かう。

「避難所を回りましたが、もう少し川沿いを下って探しに行っていたら‥‥今でもゾッとします」(小坂氏)

 結局、その夜を会社で明かした小坂氏。情報がまったく入ってこない中、翌朝、住み慣れた街に向かうと、そこには変わり果てた光景が広がっていた。

「愕然としてしまいました。慣れ親しんだ店も飲み屋も、跡形もなく消えてしまった。自衛隊の方々の必死の作業を茫然と眺めることしかできませんでした」(小坂氏)

 幸い妻と子供は山間部の実家に避難し、昼過ぎにようやく再会できたという。

「本当に幸運でした。他の被災者の方々に申し訳ないくらいです。家族が無事でしたからね」(小坂氏)

 震災直後からの2週間余りは、それこそ不眠不休の生活が続いたという。

「ライフラインがストップし、自由に風呂にさえ入れないという非日常的な生活を送っていました。ただ、競馬のことはいつから開催されるのか気になってましたよ(苦笑)。こんな時に競馬かよ、とお叱りを受けるかもしれませんが、大好きだった競馬でもしなければ、やってられないんですよ。でも、『電波をムダに使わないでください』なんて言われたら、さすがに(ネット投票は)できませんでした」(小坂氏)

 それでも、3月最終週の阪神開催から馬券購入を再開した小坂氏。パソコンで出走表を見た時は、気持ちが高ぶったという。

「私には妻と子供がいる、オレは生きている。また、こうして競馬ができると思うと胸が詰まりましたね」

 しかし、競馬の神様がすぐに被災渦中の小坂氏にほほえむことはなかった。そればかりか、近年にないスランプに陥る。それは11年のPAT収支画面からもわかる。年間トータルで108%という結果を出しながら、この期間の「2回阪神」の回収率は、わずか28%で、金額にすると60万円近い負けである。

「被災地支援レースなんて名目のレースもありましたが、『私、被災者なんですけど』と訴えたくなるほど当たりませんでした(笑)」

 その頃の小坂氏は、預金残高が10万円から40万円を行ったり来たりという状況。小坂式ステップアップの「ステップ2」にいた。

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