政治

歴代総理の胆力「片山哲」(2)人道主義者と「グズ哲」

 片山哲は生まれも育ちも、政治家とは無縁の人道主義者の環境の中にいた。父親はクリスチャンかつ高潔で鳴る弁護士で、母親もまたクリスチャンであった。母からは、幼くして「神様がお守りして下さるように」と、米国の女流作家バーネットの小説「小公子」の一節を繰り返し、読み聞かされていたのだった。ために、旧制三高時代には「救世軍」の演説に感銘、「弱者救済」を胸に東大法学部を卒業すると当然のように弁護士になっている。

 また、東大時代には、大正デモクラシーの理論的指導者の吉野作造を理事長にして「簡易法律相談所」を開設、桐下駄が10円ほどの時代に相談料わずか1円で引き受けていた。しかも、争いごとすなわち訴訟は一切受け付けずで和解専門、異色の方針で弱者の救済にあたったのだった。さらに、弁護士時代には弾圧の中で「労働総同盟」で法律部長を務めたが、これもすべて「弱者救済」のクリスチャン精神から来たものだった。

 あえて付言すると、日本の社会主義運動家は安部磯雄や賀川豊彦のように、キリスト教信仰から出発した者が多いのが特色である。また、戦前の日本の社会主義政党は当時「無産政党」と呼ばれ、その左派が労農党、右派が社会民衆党と名乗り、最も大きな勢力として両派の中間に日本労農党があったのだった。

 さて、わずか8カ月余で政権を投げ出した片山は、次の芦田均内閣で入閣要請を受けたがこれを断り、「社会党の真意を伝えるため」として地方遊説の旅に出るなど、愚直ぶりを発揮したものだった。また、学生時代に愛読したトルストイの墓参を果たすため、ソ連(現・ロシア)に渡ったりもしたのである。

 書は、「純情清節」(邪心のない節操)とよく書いた。社会党の真意を伝えるための地方遊説、トルストイの墓参も、そして短かった政権の座も、この人道主義者にとっては「純情清節」からの発露以外の何物でもなかったようである。

 ちなみに、片山がわずか8カ月で内閣総辞職を余儀なくされた背景の一つに、じつはマッカーサーによる「日本再軍備要請」を蹴ったことがあるとの見方もある。「政治は精神運動」では、とても呑める話ではなかったのだった

■片山哲の略歴

明治20(1887)年7月28日、和歌山県生まれ。弁護士。日本社会党結成に参加。初代書記長、委員長を歴任し、昭和22(1947)年5月、内閣組織。総理就任時59歳。社会党左右両派に分裂で右派委員長。昭和53(1978)年5月30日、老衰のため90歳で死去。

総理大臣歴:第46代1947年5月24日~1948年3月10日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

カテゴリー: 政治   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    「お酒大好き!」高橋凛に聞いた超絶ボディーを維持する「我慢しないお酒の飲み方」

    Sponsored

    デビュー10年目の節目に7年ぶりの写真集をリリースしたグラビアアイドルの高橋凛さん。職業柄、体型の維持には気を使っているそうですが、「ほぼ毎日嗜む」というお酒好き。それでもスタイルをキープできているのは、先輩から聞いたり自分で編み出した上手…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , , |

    配信者との恋愛はアリ? 既婚者が楽しむのはナシ? 美女ライバーと覆面リスナーが語る「ふわっち」セキララトーク

    Sponsored

    ヒマな時間に誰もが楽しめるエンタメとして知られるライブ配信アプリ。中でも「可愛い素人ライバー」と裏表のない会話ができ、30代~40代の支持を集めているのが「ふわっち」だ。今回「アサ芸プラス」では、配信者とリスナーがどのようにコミュニケーショ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    加工に疲れた!?「証明写真」「写ルンです」の「盛らない」写真の人気事情

    SNSに投稿する写真は加工アプリを使って「盛る」ことが当たり前になっているが、今、徳にZ世代の間では「あえて盛らない」写真を撮影し投稿することがブームとなっている。いったい若者たちにどんな心境の変化があったのか。ITライターが語る。「盛らな…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
習近平「裏の顔は麻薬王」だった!「効き目はヘロインの50倍」でアメリカに仕掛けた「新アヘン戦争」
2
巨人・坂本勇人がスキャンダルまみれで「現状維持」岡本和真のメジャー移籍が絡む年俸交渉ウラ
3
藤井聡太八冠の難敵になる最年少高校生棋士・藤本渚四段の末恐ろしい「勝ち気」ぶり
4
徳光和夫も怒り心頭!系列局の「24時間テレビ募金着服」事件を無視する日本テレビにアキレ返った
5
横浜DeNA有力投手がいなくなるのに「なぜか捕手を追加補強」で来季20勝以上が消える