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記事全文を読む→武豊と名馬たち(1)佐藤哲の負傷後「鞍上は武」で即決
ディープインパクト以来、8年ぶり5度目の「日本ダービー」を制した武豊騎手。デビューから26年、JRA通算勝利数は3500を超え、キズナとのコンビでGI勝利数を67に伸ばした。そんな稀代の天才ジョッキーと親交が深く、11年度「JRA馬事文化賞」を受賞した作家・島田明宏氏が「武豊と名馬たち」の知られざる秘話を書き下ろす。
馬主、生産者、調教師、そして騎手。ホースマンの「絆」の結晶とも言うべき優駿が、父譲りの末脚を伸ばし、ライバルたちを差し切った。勝者は、14万人近い大観衆による「ユタカコール」に包まれた──。
5月26日に行われた節目の第80回日本ダービーを制したのは、武豊が騎乗するキズナ(父ディープインパクト、栗東・佐々木晶三厩舎)だった。
これが武による5度目のダービー制覇。2勝した騎手はほかに11人いるが、3勝以上しているのは彼だけという独走ぶりだ。
「僕は帰ってきました!」
レース直後の力強い言葉に、スタンドが沸いた。
2010年3月の落馬事故でリズムを崩して以来、騎乗馬の質が落ちて勝ち鞍が減り、昨年はデビュー以来最低の56勝に終わった。
そんなどん底からの完全復活を思わせるダービー制覇であった。
スタートしてから後方3番手に下げ、馬群が縦長になり先頭との差が大きく開いても動かなかった。そうしてメンバー最速の上がり3ハロン33秒5の瞬発力を引き出した騎乗は、それまでダービーを4勝してきた武だからこそできたものだ。
パートナーのキズナは、10年3月5日、北海道新冠町のノースヒルズで誕生した。半姉に1998年の桜花賞、秋華賞などGIを3勝したファレノプシス、兄に02年の米GIIピーターパンSを勝ったサンデーブレイクなどがいる超良血だ。
ノースヒルズの前田幸治代表が所有したトランセンドがドバイワールドCで2着と好走したのは、東日本大震災から間もない11年3月26日のことだった。ドバイで世界中の人々から励ましの言葉をもらい、関係者の努力で好結果を生んだことに感銘を受けた前田は、そのときの一番いい生産馬にキズナ(絆)と名づけることを決めた。
かくして、「ノースヒルズ始まって以来の逸材」と呼ばれたこの馬に、その名が与えられた。
そして前田の弟・晋二が、最近走る馬を所有していないからと兄からキズナを譲られ、オーナーとなった。
キズナは昨年10月の2歳新馬戦と11月の黄菊賞を佐藤哲三の手綱で圧勝した。
佐藤は、キズナを管理する佐々木晶三厩舎のアーネストリー(前田幸治所有)で11年の宝塚記念を勝つなど、佐々木厩舎の主戦として活躍してきた騎手だ。
しかし、佐藤が落馬で負傷したため、キズナの鞍上が武にスイッチされた。
こう書くと唐突な乗り替わりに思われるかもしれないが、姉のファレノプシスに桜花賞と秋華賞を勝たせたのは武だった。父ディープインパクトの主戦も彼であり、また、前田は、武が落馬負傷以降成績が落ちてからも以前と変わらず騎乗馬を用意して支えてきた、武にとっての恩人だ。佐藤の負傷後、キズナの鞍上を決めるとき、前田は迷わず武の名を挙げ、それが管理者の佐々木と一致して新コンビ結成に至った。そう、この馬は武とも強い「絆」でつながっていたのだ。
◆作家 島田明宏
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