政治

歴代総理の胆力「宮澤喜一」(1)福田赳夫と双璧の秀才

 東大法学部卒の“巣窟”にして、並み居る省庁の中でも「エリート中のエリート官庁」とされているのが財務省(旧・大蔵省)だが、「省史」を紐解いてみると、その中でも、さらに飛び抜けての秀才が、二人浮上してくる。ともにのちに総理となる福田赳夫と、この宮澤喜一である。

 宮澤は東京帝国大学法学部を首席で卒業、大蔵省に入った。スゴイのは、入省のための当時の高等文官試験(現在の国家公務員総合職試験)で、行政科の一つをパスして入省してくる者が多い中、宮澤はナントもう一つ外交科の試験もパスしてきたという極め付きの「秀才」だった。

 なるほど、大蔵官僚として鋭い分析力、語学力、実務能力の高さから何をやらせても堅実に仕事をこなし、省員の誰もが一目置いていた。

 出世の糸口は、まず大蔵省先輩の池田勇人(のちに総理)の目に止まったことに始まった。池田は当時の吉田茂総理に買われて次官から政界入り、代議士1年生にして大蔵大臣に抜擢される。その池田蔵相秘書官として取り立てられたのだった。

 仕事ぶりは常にソツなく、池田が総理の座に就くと「池田側近」として、とりわけ対米交渉の舞台裏で、存分に腕を振るった。米国の高官いわく「ミスター池田は、小さいがキラリと光るダイアモンドを持っている」と、宮澤の存在をうらやましがったものである。

 なるほど、その後、政界入りした宮澤は、佐藤栄作、三木武夫、鈴木善幸、中曽根康弘、竹下登といった歴代内閣には、ほとんど休むことなく閣僚として重用された。やがて自らが政権に就き退陣したあとも、小渕恵三、森喜朗の両内閣で大蔵大臣として起用されるという異例ぶりで、これは総理を退いたあと経済・財政の立て直しのために大蔵大臣として起用された「だるま宰相」高橋是清に擬せられたものだった。

 そうした閣僚歴は経済企画庁長官に始まり、通産相、外相、官房長官、副総理、そしての蔵相ということで、その間、見るべき瑕疵がなかったのだから、なんとも手堅い男ではあった。

 しかし、こうした宮澤を評価しなかった人物がいた。田中角栄であった。この田中の「盟友」で、池田勇人の創設した派閥「宏池会」で宮澤とともに池田を支えた大平正芳(のちに総理)の政権ともども、一切、閣僚ポストを与えなかったものだ。大平が「宏池会」を率いて最も苦境のとき、派閥幹部だった宮澤が泥をかぶり、汗をかくことがなかったことなどから、関係は冷え切っていたのだった。

 田中角栄のもとで長く秘書を務めていた早坂茂三(のちに政治評論家)は、筆者に田中の「宮澤評」を、次のように話してくれたことがあった。

「親父(田中のこと)さんは、総理になる前、一度だけ宮澤と酒席を共にした。あとで言っていた。『アイツは食えん。たしかに、秘書官としては第一級だろうが、政治家じゃない。二度と酒は飲みたくない相手だ』と。

 政治というものは、そら道路を直せ、橋を造れという地元選挙民の不満を払拭することだとしてきた親父さんだ。対して、そんなことは県会議員がやること、国会議員は世界をにらみながら国のカジ取りをやるべきとしたのが宮澤で、噛み合わなかったということだ。“リベラルな知性派”としての評価もあった宮澤だが、親父さんは突き放して見ていた」

 早坂は、宮澤が通産相時代のこじれにこじれた日米繊維交渉を1ミリも前進させることができず、田中が通産相になってあっという間にこの交渉を落着させた例を引き、「田中はあのとき、3000億円のカネを引っ張り出して日本国内の繊維業者を黙らせた。そうした腕力は宮澤にはなかった」と加えた。

■宮澤喜一の略歴

大正8(1919)年10月8日、東京都生まれ。東京帝国大学卒業後、大蔵省入省。昭和28(1953)年4月、参議院選初当選。のち、衆院に転じる。平成3(1991)年11月、内閣組織。総理就任時72歳。内閣不信任案可決で解散、総選挙後、退陣。平成19(2007)年6月28日、87歳で死去。

総理大臣歴:第78代 1991年11月5日~1993年8月9日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

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