スポーツ

楽天田中将大と嶋基宏「黄金コンビ」苦闘7年物語(1)外角中心の配球を星野監督に叱責された

20131024g

 チーム創立9年目にして初のリーグ優勝を果たした楽天イーグルス。その立て役者と言えば、24勝0敗の田中将大に他ならないだろう。繊細かつ大胆なピッチングは昨シーズンとは一線を画す安定感を誇る。その裏には、陰で支える女房役の存在があったのだ。

 9月26日の対西武戦、1点ビハインドの7回、楽天・田中将大(24)がブルペンに入った時、ライト側スタンドから大きな歓声がわき起こった。星野仙一監督(66)の“優勝を決めるマウンドには田中を立たせてあげたい”という思いが、粋な配慮につながったのだ。

 楽天は7回に、ジョーンズの二塁打で4-3と逆転。8回の西武攻撃時には、2位のロッテが日本ハムに敗れるという知らせが入った。この時点で、前日にマジック1にしていた楽天の優勝は決まる。あとは9回の田中の登板を待つだけだった。

 開幕から21連勝中の田中だったが、優勝はもちろん初めての経験である。先頭打者の鬼崎裕司(30)に対して初球150キロのストレートは緊張のため、ボールは高めに浮き、大きく外れた。そこで女房役の捕手・嶋基宏(29)はすかさず変化球を要求。

 2球目にストライクを取ると、3球目も続けて変化球。かろうじてバットに当たった打球は、田中の頭上を越え、内野安打になった。

 続くヘルマン(35)に対しても、走者を警戒するあまり、四球を出してしまう。西武ベンチは片岡治大(30)に送りバントさせ、一死二─三塁からクリーンアップにつなげる作戦に出た。ここからが今季の田中を象徴するようなピッチングだった。

「今年の田中には、『走者を出してもギアが入っているから思い切って腕を振っていこう』ということだけを言いました。余分なことは言わなくてもわかってくれます」

 試合後に嶋がこう語ったように、2人の阿吽の呼吸はこの時、「困った時の外角低め」で一致していた。

 三番・栗山巧(30)に対して、外角低めに152キロのストレートから入り、3球三振に。続く4番・浅村栄斗(23)に対しても全球150キロを超すストレートで、2-2からの空振り三振に打ち取り、創立9年目にしての初優勝をみずからの右腕で手中に収めたのだ。

「あそこまできたら、まっすぐで押すのがいちばんいいと思った。将大は必ず応えてくれると思った」

 8球続けての直球勝負について、嶋はこう言った。絶体絶命のピンチになってもまったく動じない信頼関係が、最後に結実したのだった。星野監督が7度宙に舞う中で、田中はカメラに向かって、大きくジャンプする一方、嶋はただただ号泣するばかりだった──。

 この対照的な2人のバッテリーの間には、ここに至るまでのさまざまな思いが去来していた。

 嶋のリードは、入団時の監督だった野村克也により「相手打者を見ながら、外角を中心に組み立てるべき」と教わり、それを実践してきた。ところが、星野監督が就任してからは、外角中心のリードを嫌うあまり、たびたび嶋に対して檄が飛んだ。集中打を浴びるのは、大胆に内角をえぐる球を投げていないからと映ってしまうのだ。ミーティングでも、「もっと内角をえぐって強気のリードをしろ」と何度も叱責を受けていた。

 特に、9月18日の対ソフトバンク戦では、6点差をひっくり返され10対11で敗戦。その翌日には、「逃げのリード」の烙印を押され、スタメンを伊志嶺忠(28)に奪われたことさえあった。そんな中、いつも自分の責任にして、投手陣をかばっていたのが嶋だった。そのことを投手陣は全員知っていた。「打たれるのはコントロールが狂った投手が悪いのに‥‥」と、田中も責任感の強い嶋に報うべく、決意を新たにしたのだった。

◆スポーツライター 永谷 脩

◆10/15発売(10/24号)より

カテゴリー: スポーツ   タグ: , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
「致死量」井上清華アナの猛烈労働を止めない「局次長」西山喜久恵に怒りの声
2
完熟フレッシュ・池田レイラが日大芸術学部を1年で退学したのは…
3
またまたファンが「引き渡し拒否」大谷翔平の日本人最多本塁打「記念球」の取り扱い方法
4
3Aで好投してもメジャー昇格が難しい…藤浪晋太郎に立ちはだかるマイナーリーグの「不文律」
5
高島礼子の声が…旅番組「列車内撮影NG問題」を解決するテレビ東京の「グレーゾーンな新手法」