スポーツ

平成の盾男「武豊と天皇賞」(1)イナリワンで天皇賞初騎乗初勝利

20140508_15h

 第149回を数える天皇賞が5月4日に行われる。天才・武豊がコンビを組むのは昨年のダービー馬キズナだ。デビュー3年目、初めて天皇賞に騎乗し、初制覇を成し遂げた若き天才は、4年連続で春天を制し、いつしか「平成の盾男」と呼ばれるようになった──。

 46戦11勝2着7回3着8回。「平成の盾男」と呼ばれる武豊の天皇賞における通算成績である。勝率23.9%、連対率39.1%、複勝率56.5%。

 これを春の天皇賞だけに限定すると、21戦6勝2着6回3着4回。勝率28.6%、連対率57.1%、複勝率は76.2%にまで跳ね上がる。面白いことに、着外となった5回はすべて二桁着順だ。つまり、武は春の盾で4回に3回は馬券に絡み、残りの1回は大敗‥‥と、非常に読みやすい結果を残してきたのである。

 キズナで臨む今年はどちらになる可能性が高いかは言わずもがなだろう。

 そんな彼が初めて春の天皇賞に臨んだのは、今から25年前、1989(平成元)年のことだった。騎乗馬は当時5歳の牡馬イナリワンだった。

 その年、大井から中央入りしたイナリワンは、東京大賞典などを勝った強豪だったのだが、とにかく掛かる馬だった。ほかの騎手を背にした中央初戦も2戦目も掛かってしまい、それぞれ4、5着に敗れていた。そこで、馬への当たりがやわらかく、折り合いをつける技術の高い騎手として、武が起用された。

 しかし、調教で初めてこの馬に乗った武は頭を抱えた。走り出したら止まろうとせず、手綱を引っ張ったままコースを2周も持って行かれてしまったのだ。

 ──この馬で3200メートルを乗り切れるかなあ。

 陣営は、馬の少ない時間帯に調教するなどして落ちつかせようとしたが、折り合い面に不安のあるままレースを迎えることに。

 ゲートが開くと、武はひたすら折り合いに専念した。1番枠からの発走で、前の馬に乗り掛かる危険もあっただけに、よけいに慎重にレースを進めた。馬がエキサイトしそうになったらハミを外し、それでも前に行こうとしたらグーンと手綱を引き、また力を緩め‥‥と、イナリワンの超ハイパワーエンジンをふかしすぎないことだけに集中し、ふと気づいたら2周目の勝負どころに差しかかっていた。

 そのとき武は、嬉しい驚きを感じた。イナリワンが十分すぎるほどの余力を残し、いつでも弾けることのできる状態になっていたのだ。位置取りや他馬の動きなどをまったく気にしていなかった彼は、このとき初めて勝利を意識した。

 溜めに溜めたエネルギーを直線で爆発させたイナリワンは、2着を5馬身突き放して圧勝。武は、天皇賞初騎乗初勝利を挙げた。

 まだデビュー3年目。減量がとれない見習い騎手という立場だった。

 にもかかわらず、前年秋、スーパークリークで勝った菊花賞といい、この春の天皇賞といい、「騎手の腕がモノを言う」と言われている長距離戦で百戦錬磨のベテランを向こうに結果を出し、その技術が本物であることを見せつけた。

◆作家 島田明宏

◆アサヒ芸能4/28発売(5/8・15合併号)より

カテゴリー: スポーツ   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
「致死量」井上清華アナの猛烈労働を止めない「局次長」西山喜久恵に怒りの声
2
完熟フレッシュ・池田レイラが日大芸術学部を1年で退学したのは…
3
またまたファンが「引き渡し拒否」大谷翔平の日本人最多本塁打「記念球」の取り扱い方法
4
3Aで好投してもメジャー昇格が難しい…藤浪晋太郎に立ちはだかるマイナーリーグの「不文律」
5
高島礼子の声が…旅番組「列車内撮影NG問題」を解決するテレビ東京の「グレーゾーンな新手法」