スポーツ
Posted on 2025年01月25日 05:56

二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈「野茂VS清原」魅惑の一騎打ち〉

2025年01月25日 05:56

西武 VS 近鉄」パ・リーグ公式戦・1994年4月9日

 メジャーリーグで2度のノーヒットノーランを達成している野茂英雄だが、日本では一度もない。

 惜しかったのは1994年4月9日の開幕戦だ。舞台は西武球場。先発の野茂は8回まで西武打線をノーヒットに抑えていた。

 6与四球、12奪三振。

「ランナーを出しても本塁に還さなきゃいいんです」

 それがアマチュア時代からの、野茂の一貫した考えだった。

 西武の先発は郭泰源。〝オリエントエクスプレス〞の異名を取る怪腕も好投を続けていたが、9回表にスコアが動く。

 1死一、二塁で4番・石井浩郎が、2ボールからの3球目のシュートを、腕をたたんでレフトスタンドに叩き込んだのだ。

 石井の回想。

「郭泰源といえばスライダーだがシュートもよかった。シュートが効いているからスライダーも生きるんです。僕は7対3の割合でシュートを待っていた」

 3対0。普通なら、これで勝負ありだ。試合の関心は野茂のプロ入り初のノーヒットノーランに移った。

 9回裏、西武の先頭打者は4番・清原和博。野茂がプロ入りした90年から、二人は〝平成の名勝負〞と呼ばれる力対力の対決を演じてきた。

「清原さんはバッターボックスに立つだけで大きく感じられる。あの自信満々の構えを見ていたら、どうしても『向かっていったろ!』って気になるんです」

 学年では1年先輩の清原も、野茂については社会人の頃から注目していた。

「僕より年下で、こんなにすごいピッチャーおったんかって。キューバの選手がクルクル回るんだから。もしこのピッチャーと対決したら、オレどうなるんかと。(89年のドラフトの時)セ・リーグに行ってくれって願ってました(笑)」

 野茂は清原に対し、伝家の宝刀フォークボールを封印し、常にストレート勝負を挑んだ。野茂の熱い思いにフルスイングで応える清原。まさにやるかやられるかの果たし合いだった。

 大記録まで、あとアウト3つ。野茂は全てストレートで、カウント2ボール1ストライク。134球目の外角ストレートを清原は右方向に持っていった。打球はライトの内匠政博の頭上を越える2ベース。

 これでノーヒットノーランが消えたとはいえ、野茂に動揺はなかった。

「まだ3点(リードが)あったんで、1点くらいはいいいかなと‥‥」

 西武は、野茂が近鉄に入った90年から93年にかけてリーグ4連覇を達成していた。この年は5連覇がかかっていた。

 チャンスと見れば一気にたたみかけるのが、この頃の西武である。四球、失策などで1死満塁となったところで近鉄の鈴木啓示監督がベンチを出る。大エースの野茂に代え、クローザーの赤堀元之をマウンドに送ったのだ。

 打者は8番・伊東勤。赤堀の甘い球を叩くと、打球はライト側から吹き付ける強風に乗り、レフトポール際に飛び込んだ。

 開幕戦史上初の逆転サヨナラ満塁弾。記念すべき通算1000安打を伊東は離れ業で飾った。

 それにしても、あそこで野茂を代えるとは。開幕前、就任したばかりの指揮官は「野茂と心中する」と語っていたはずだが‥‥。

「赤堀が打たれたんですから仕方ないですね」

 野茂は表情ひとつ変えずに、そう答えた。

二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森保一の決める技法」。

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    芸能
    2026年06月07日 08:45

    バラエティー番組でピン芸人の中山功太が告発した、サバンナ・高橋茂雄によるいじめ。まだ記憶に新しい騒動だが、高橋の謝罪に発展したこの一件には単純に語れない側面もあったようだ。周囲の芸人を巻き込んだ混乱の中でひとつ、際立つ動きがあった。仲裁役と...

    記事全文を読む→
    スポーツ
    2026年06月10日 11:00

    またもや、負のスパイラルの繰り返しである。楽天が6月10日、借金15の成績不振を理由に、三木肇監督の休養を発表した。10日の巨人戦から塩川達也ヘッドコーチが「監督代行」として指揮を執る。楽天の監督交代はもはや、お家芸だ。2005年に新規参入...

    記事全文を読む→
    女子アナ
    2026年06月10日 14:30

    局アナによる異例の公表が、大きな波紋を広げている。出演するラジオ番組で「結婚」について激白したのは、TBSの山本恵里伽アナウンサーだ。それは6月9日放送の「荻上チキ・Session」でのこと。山本アナは、法律婚ではなく事実婚を選んだと明かし...

    記事全文を読む→
    注目キーワード

    人気記事

    1. 1
    2. 2
    3. 3
    4. 4
    5. 5
    6. 6
    7. 7
    8. 8
    9. 9
    10. 10
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/6/9発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク