社会

ホントーク〈三木義一×名越健郎〉(1)日本の財政は各省庁の利権

「まさかの税金 騙されないための大人の知識」三木義一/1210円・ちくま新書

 国民の負担は増える一方で、政府の税収は過去最高額を更新している。元政府税制調査会の専門家委員で税金専門の弁護士・三木義一氏が相続税、ふるさと納税、空き家問題など、税の盲点をわかりやすく解説する。

名越 税金に関する書籍のほとんどは実務的で堅苦しい内容が多い中、この本はとても面白かったです。

三木 ありがとうございます。税金の話は正面から書いたら誰も読んでくれませんし、難しくなりやすいですから、気楽に読めるようダジャレで終わるように執筆しました。

名越 25年度の税収見通しが6年連続で過去最高を更新しましたが、国民の税金負担は増える一方です。一番の原因は何でしょうか。

三木 長らく政権交代が起きなかったことに尽きます。財務省は国税、総務省が地方税、厚労省は社会保険と、日本の財政は各省庁の利権と密接につながっています。各省庁は自分たちの利権をずっと守るだけで、見直しがされなかったわけなんです。

名越 それが税制度のいびつな構造を生んだんですね。やはり、自民党税制調査会は相当、影響力を持っているのでしょうか。

三木 はい。これまでほとんど自民党の税調が決めてきました。メンバーの多くは財務省出身者です。

名越 昨年秋の衆議院選挙で自民党が過半数割れをしました。そのため、野党の主張も議論せざるをえなくなり、103万円の壁などが議論されたんですね。

三木 かつて103万円の壁といえば、配偶者控除の問題で騒がれていました。この問題は配偶者特別控除を入れることで基本的には解消したんです。ところが、国民民主党の103万円の壁というのは、扶養控除対象の若者のアルバイト代が年間103万円を超えると親の扶養から外れてしまう問題を指摘したんです。

名越 そうなると、親の税金が上がり、手取りが減ってしまいますね。

三木 日本の場合、国民の健康で文化的な最低限度の生活に相当する所得には税金をかけちゃいけないわけです。その趣旨で設けられたのが基礎控除です。2020年に48万円まで引き上げられましたが、給与所得控除が10万円引き下げられたため、実質30年間据え置かれたままです。いつの間にか日・米・独・仏・英の5カ国の中でも一番低所得者に厳しい国になっています。

名越 やはり、みんな税について厳しい意識を持たないといけないですね。

三木 一番不公正なのは、社会保険料(厚生年金保険料)なんですよ。ものすごい逆進性です。

名越 確かに社会保険料の増額が家計を圧迫しています。

三木 日本人はどういうわけか、税金に対しては拒否反応を示すんですけど、「社会保険料」だというと拒否反応は少ない。ただ、税とは異なり滞納しがちです。政治家は税金を上げたいけれど、そうすると選挙に落ちるかもしれない。だから表向きには「増税をヤメます」と言いながら、裏では厚労省に社会保険料を引き上げさせてきたわけです。なので将来、自分に返ってくるわけではないことを覚えていただきたいのです。

ゲスト:三木義一(みき・よしかず)弁護士、青山学院大学名誉教授(元学長)。1950年東京都生まれ。中央大学法学部卒。一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。94年立命館大学法学部教授、98年、ミュンスター財政裁判所客員裁判官、09年政府税制調査会専門家委員会委員に就任。10年青山学院大学法学部教授、15年青山学院大学学長に就任。19年青山学院大学学長を退任。20年山本法律会計事務所入所。

聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。

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