J1優勝5回、鹿島アントラーズとともにJ2に降格したことがない名門・横浜F・マリノスが苦しんでいる。第9節を終了して1勝4敗3分、勝ち点7で19位に沈んでいるのだ。消化している試合が1試合少ないとはいえ、予想外の結果である。
課題はハッキリしている。攻撃力だ。ここまでの総得点4はリーグワースト。シュート総数69もリーグワースト。逆に失点は6と、4番目に少ない。しかもボールポゼッション率はリーグ2位と高い。それでも点が取れないのは、いかにチャンスを作り出せないでいるか、ということになる。
今季のマリノスは、スティーブ・ホーランド新監督を迎えた。ホーランド監督は2016年からイングランド代表のアシスタントコーチを務め、2018年ロシアW杯4位、2022年W杯ベスト8を経験。UEFA EURO(欧州選手権)も2020年、2024年の準優勝に尽力した。それ以前はプレミアリーグの強豪チェルシーで、ジョゼ・モウリーニョ、アントニオ・コンテの元でアシスタントコーチだった。
ホーランド監督は、昨季リーグワースト4位の62失点に目を向け、キャンプから守備の立て直しを図った。その結果が現在の失点6に繋がっている。守備に関してはキャンプから徹底的に教え込まれ、決め事が多く、プレスにいくところ、待つところなど、時間を割いて細かく練習してきた。
ところが攻撃に関しては、監督からの指示は特になかったという。つまり、選手個々の発想に任せる、ということなのか。
ここまでの戦い方を見れば、守備はある程度、計算できる。ところが、攻撃は最悪だ。昨季、リーグ3位の61ゴールという決定力は鳴りを潜め、2年連続得点王のアンデルソン・ロペスでさえ、いまだ1ゴール。自分たちの攻撃のパターンがないから、ボールを貰ってもパスの出しどころを探している場面が多い。パスの出し手と受け手だけの関係になっているのだ。
攻撃の決め事をいくつか作れば、少しは変わってくるはず。例えば黄金時代の川崎フロンターレは、ボールを持っている選手を追い越して行く動きが頻繁にあった。だから後ろ、横だけでなく、前にも斜め前にもパスコースが生まれた。それだけでも攻撃の形は違ってくるはずだ。
ホーランド監督はここまで守備を中心に、チームを立て直してきた。これから攻撃面をどうするのか。ACLEがあり、5月、6月は週2試合が多く、攻撃面を立て直す時間は限られている。その短い期間で何ができるのか。
気になるのは、ホーランド監督の采配だ。ハードスケジュールで疲労が溜まっている中、5人交代を使い切らなかったり、選手交代が遅れる場面が見られた。
彼が欧州でどういう評価をされているかはわからないが、Jリーグでの経験はなく、欧州でもトップチームの監督を経験していない。監督とコーチは全く別物だ。いいコーチが必ずしも優れた監督になるとは限らない。
何度も言うが、これから攻撃力をどう立て直していくのか。現段階では、マリノスが掲げる「アタッキング・フットボール」から遠ざかっている。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップ・アジア予選、アジアカップなど、数多くの大会を取材してきた。