今年のゴールデンウィークの、海外旅行先の人気1位は台湾だった。対照的だったのは、かつて不動の人気を誇ったタイ・バンコクだ。リピーターから「もう十分」、あるいは「一度行けば満足」といった声が目立つようになっている。
東南アジアの楽園として長年、多くの日本人旅行者を引きつけてきたバンコク。ところが最近では、かつて何度も足を運んでいた常連の間でも「もうそろそろ、いいかな」と距離を置く傾向が強まっている。いったい何が「変化」したのか。
「単純に昔のバンコクじゃなくなったからですよ。1990年代から2000年代初頭のバンコクは、言ってしまえばカオスだった。その混沌こそが魅力だったんです」
こう語るのは、20回以上もバンコクを訪れているという40代の日本人男性だ。
「昼間から路地裏で現地の人と飲んだり、夜になればカオサンでワケのわからないパーティーに巻き込まれたり。あの雑多で猥雑な空気が、なんとも言えず『アジアしてた』んです。ところが今のバンコクは便利すぎるし、清潔すぎる。ただの『発展した都市』で、どこかにあった『熱』はすっかり冷めてしまった感じですね」
街を走るBTSやMRT、高層ビルに囲まれたショッピングモール。確かに今のバンコクは、初めて訪れる旅行者には快適そのものだが、「あの頃のバンコク」を知る者にしてみれば、逆に物足りなく感じるのだ。
25年前に初めてバンコクを訪れた男性にも話を聞くと、
「昔はクイッティアオが15バーツ(約45円)で食べられて、ゲストハウスは1泊500円程度。マッサージにビールも楽しんで、1日3000円あれば十分でした。今はホテルも食事も高くなり、屋台は観光地化して値段が倍以上に。接客も観光慣れしてしまって、昔のような素朴さはすっかり薄れましたね」
タイの経済発展、インフレ、そして観光地化…あらゆる要因が「安くて楽しいバンコク」を遠ざけているのは間違いない。では、今のバンコクには全く魅力がないのか。
「初めて行く人には楽しいと思います。でも便利すぎて、東京とあまり変わらないんですよね。物価は高いし、円安の今、わざわざ行く理由が薄い。アジアらしさを求めるならば、地方が楽しめますよ」(旅行業関係者)
確かに今のバンコクは安全で快適で、初めて行く旅行者には申し分ない都市だ。だがその分だけ、昔のような「混沌を味わう旅」ではなくなってしまったのは事実なのだ。