江藤拓農水相は5月21日午前、石破茂首相に辞表を提出した。5月18日に佐賀市での講演で「コメは買ったことがない。売るほどある」と発言したことが猛批判を浴びた。石破内閣が2024年10月に発足して初めての閣僚更迭で、夏の参院選を前に、石破首相にとっては大打撃となる。自民党内では石破政権の現状について、
「2007年の第一次安倍晋三内閣に似てきている」(閣僚経験者)
との声が出ている。
当時はずさんな年金記録問題のほか、「政治とカネ」をめぐる問題で松岡利勝農水相が自殺し、後任となった赤城徳彦氏も事務所費疑惑を受けて辞表を提出した。閣僚の失言が相次ぎ、世論の厳しい批判を受けた。
2007年7月の参院選で、自民党は改選前の64議席から37議席に激減。1989年に宇野宗佑首相が退陣した、過去最低の36議席に匹敵する歴史的大敗だった。この時、党総務会で「選挙に負けたにもかかわらず、続投するのは理屈が通らない」と安倍退陣を求めたのが石破首相だった。その後、安倍氏は体調不良を理由に退陣している。
今回も、江藤氏の失言のほか、石破首相自身も5月19日の参院予算委員会で「我が国の財政状況は間違いなく、極めてよろしくない。ギリシャよりもよろしくない」と発言。国民民主党の玉木雄一郎代表が「一国の総理として、たいへん問題のある発言だ。自国の国債市場に影響を与えるような発言を平気でするというのは信じられない」と批判するなど、波紋を広げた。パート従業員らの厚生年金加入拡大を柱とする年金制度改革法案も抱えている。
石破首相や森山裕幹事長は参院選について、与党で過半数(125議席)を維持できるかを勝敗ラインとしている。3年前の参院選での大勝によって非改選の75議席があるため、50議席でも過半数を保つ。公明党が前回と同様に13議席を確保するとしたら、自民党は37議席でも50議席に達する。
奇しくも石破首相が安倍氏に退陣を迫った同じ37議席でも、「勝敗ラインに達した」と続投を決め込むのか。前出の閣僚経験者は、
「40議席を割り込んだら即退陣だ。44議席でも1998年の橋本龍太郎首相は退陣を表明しており、40台前半を下回るようなら、退陣論が出てくるだろう」
はたして石破首相は往生際がいいのか悪いのか。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)