延長11回、無死一・二塁という絶好機で打席に立った広島カープの2024年ドラフト1位・佐々木泰はこの日のヤクルト戦でプロ初安打を含む2安打を放ち、チームに勢いをもたらしていた。
しかしこの場面で新井貴浩監督が選んだのは「犠打」。アウトひとつを献上することで、走者を進塁させる作戦だった。ゲッツーのリスクを避け、得点機会を確実に積み上げる手堅い戦術。しかしこれが失敗に終わり、一打サヨナラを期待したファンは天を仰いだ。
5月22日のこの試合、佐々木の調子は非常に良く、青山学院大学時代に大舞台で見せた勝負強さを考えれば、バット勝負を託すのが理にかなっていたのでは、と思う。今となっては、ただの結果論にすぎないが…。
ではこの場面でのバントは、本当に最善の選択だったのか。NPB公式の試合データに基づく「Run Expectancy Matrix(REM)」(イニングが終わるまでに平均して何得点できるかを示した統計表)を参照すると、犠打の効果は思ったほど大きくないことがわかる。
無死一・二塁の場合、残りの攻撃チャンスにあらかじめ期待できる得点は「1.378」。犠打で走者を進めた場合、一死二・三塁となるが、その場合は「1.313」。一見、確実に進塁できるものの、実際には得点機をわずかに減らしてしまうのだ。
さらに「少なくとも1点を取れる確率」は、無死一・二塁で約72%、一死二・三塁では約71%。ほぼ同じとはいえ、1%の減少が認められ、イニング残りで得点するチャンス全体の価値は上がるどころか、下がる。むしろ無死のまま佐々木に勝負を託せば、サヨナラ打など一打逆転のシナリオを引き寄せる可能性があった…と思ってしまうのだ。
奇しくもこの日、仙台では広島がドラフト会議でくじを外した楽天の宗山塁が、同点の9回一死三塁の場面で中堅へのサヨナラ犠牲フライを放ち、劇的な勝利を演出している。
佐々木の将来を考える上でも、次のチャンスにはデータを踏まえた果敢な打撃起用を…と新井監督に注文をつけたくなるのだった。
(ケン高田)