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Posted on 2025年07月13日 06:00

プロ野球「オンオフ秘録遺産」90年〈球宴通算7度のMVP「お祭り男」と呼ばれて〉

2025年07月13日 06:00

 清原和博が照れくさそうな表情で、小走りにお立ち台に向かった。

 史上最多となる、球宴通算7度目のMVPの名前がコールされた瞬間だ。

 プロ野球における夏の風物詩とくれば、これはもうオールスター戦であり「オールスター男」と呼ばれたのが清原だった。

「プロ生活で一番うれしいMVPです。1カ月前は2軍でやっていたんで、こういう日が来るとは思ってなかった」

 2000年7月26日、長崎ビッグNスタジアムで行われた第3戦の2回表だった。全パの先発・小野晋吾の131キロシュートを捉えた。打球はバックスクリーン左へ消えて行った。

「全打席でホームランを狙う」

 清原の体はごく自然に反応していた。

 球宴通算12本目となる本塁打であり、山本浩二、王貞治に続いて、史上単独3位に躍り出た。

 MVPを決めたのは7回だった。2死満塁から右前に2点タイムリーを放った。この日、3打点を挙げた。通算の打点は31となり、王と並んでトップタイに立った。

セ 0 1 0 1 1 0 5 1 0=9
パ 0 0 0 0 0 0 0 3 0=3

 96年のオフに西武から巨人にFA移籍してきたが、初めて対戦するセ・リーグの投手たちに戸惑った。結果が出ないと、マスコミに叩かれた。その批判は西武時代の比ではなかった。

 好機で凡退すれば、巨人の敗因を押し付ける記事が多かった。いつしか清原は長嶋巨人がもたつく元凶として名指しされるようになる。

 巨人移籍1年目は4位、6年ぶりのBクラスだった。清原は戦犯とされた。自身もプロ野球生活12年目にして、初めてBクラスの屈辱を味わうことになった。

 98、99年もケガに悩まされて、西武時代の清原らしい活躍とは遠かった。強面のイメージから「番長」と呼ばれた。

 そして4年目のこの年も、キャンプ中に肉離れを起こしてプロ入り初の2軍スタートになった。

 その際、オーナーの渡邉恒雄からは、清原が1軍にいないことで「勝利要因が増えたな」とまで言われたのだった。

 前半戦の故障もあって、セ・リーグ一塁手部門は同僚のドミンゴ・マルティネスにさらわれた。監督推薦からも漏れた。99年は辞退だったが、この年は明らかに落選だった。

 だが野球の神様は「お祭り男」を見捨てなかった。マルティネス、さらにこれまた同僚の江藤智が、故障によって出場を辞退したことで滑り込み出場となったのだ。

「こういう日が来るとは思ってなかった‥‥」

 7度目の獲得となったMVPをしみじみと振り返った背景には、こんなワケがあった。

 清原は85年のドラフトで西武に入団。86年は新人王を獲得したが、22年間に及ぶ現役生活のペナントレースでは、打率・本塁打・打点の打撃主要3部門のタイトルを何1つ獲得していない。

 しかし、真夏の祭典では打ちまくった。「無冠の帝王」は大舞台ですさまじい力を発揮した。

 オールスター戦に18回出場し、13本塁打を含む46安打、34打点、打率3割6分5厘という素晴らしい成績を残した。

 長打23本の96塁打である。まさにスラッガーの証明だ。

 お祭り男の原点は、19歳で初出場した86年7月20日、大阪球場での第2戦である。高卒ルーキーとして16年ぶりにファン投票で出場した。

セ 0 0 0 0 1 1 1 0 0 0 0=3
パ 0 0 2 0 0 0 1 0 0 0 1=4

 7回裏、パが1点を追って清原の出番が来た。1死で、マウンドに立っていたのは球界を代表する投手の1人、大洋(現DeNA)の遠藤一彦だ。

 初球はチェンジアップ。清原の狙いは真っすぐだった。だがバットは精巧な機械のように、ピタリとタイミングを合わせて真芯で捉えた。

 打球は左翼席上段で弾んだ。36回を数えた夢の舞台で、高卒ルーキーが初めて叩き出したアーチだった。

「初球から打っていこうと思っていました。遠藤さんは別に意識しませんでした」

 さらに、「もらえると思っていませんでしたよ」と謙虚に語っている。

 故郷での歴史的な一発でMVP受賞である。

 2度目は翌87年の第3戦である。巨人の桑田真澄が先発として登場し、因縁のKK対決が実現した。

 舞台は2人が活躍した甲子園。大いに盛り上がった。清原は1回表1死一塁で桑田の初球を左翼席に運んだ。この本塁打を含む3安打で、文句なしの受賞となった。

 3度目は90年の第2戦(平和台)で、2本塁打を放っての受賞。1本は推定飛距離150メートルの場外弾だった。

 93年の4度目は第1戦(東京ドーム)。両軍で6発が飛び交ったが、清原の本塁打がパの勝利に貢献した。5度目は96年の第2戦(東京ドーム)で、逆転打を含む2本の二塁打を放った。

 6度目は巨人に移籍した97年である。シーズン当初は4番に座っていたが、不振からその座を石井浩郎に明け渡していた。

 それでも、球宴となると変身する。第2戦(神宮)で2回裏に先制の2点本塁打、4回にも2点本塁打で4打点を挙げる独壇場となった。

 長嶋監督からは試合前に「花火が見たいな」とリクエストされていたそうで、それが2発だ。清原は球宴に強い理由を聞かれて、こう語っている。

「余計なことを考えないから打てるんじゃないかな」

 打撃のタイトルとは無縁だった清原だが、「球宴男」としていまだにファンの語り草となっている。

(敬称略)

猪狩雷太(いかり・らいた)スポーツライター。スポーツ紙のプロ野球担当記者、デスクなどを通して約40年、取材と執筆に携わる。野球界の裏側を描いた著書あり

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