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Posted on 2026年03月01日 06:00

プロ野球「オンオフ秘録遺産」90年〈長嶋巨人が歴史的大敗「25失点」の新記録〉

2026年03月01日 06:00

 監督の長嶋茂雄はベンチで頭を抱えていた。ぼう然とし、あきれ返っていた。

 1994年3月5日、ダイエー(現ソフトバンク)対巨人のオープン戦が行われた北九州市民球場には、春の訪れを感じさせる風が吹いていた。

 4月9日の開幕まであと1カ月少々である。長嶋率いる巨人は、オープン戦開幕から4連敗を喫することになった。64年以来、30年ぶりのことだった。しかも「歴史的大敗」であった。

ダ 0 6 6 3 0 5 1 4 0=25
巨 2 2 0 0 0 0 0 0 0=4

 ダイエー打線に浴びた安打は順に045435251‥‥29。これは50年の2リーグ分立後、公式戦を合わせた新記録だった。

 ダイエーといえばバーゲンセールだが、この日は巨人投手陣がダイエーに先発全員安打の大バーゲンセールを行ったのだ。

 25失点もまた、85年3月30日に中日が阪急(現オリックス)戦で記録した23失点を上回った。

「まあ、これだけ打たれたら、まあ逆にもう気持ちいいですよ」

 たかがオープン戦、されどオープン戦。長嶋はこうは言ったものの、言葉の端々に動揺の色がのぞいた。

 先発した門奈哲寛が2回を被安打4で6失点。

「力が入ってしまった。自分のフォームで投げている感じがしなかった」

 桑田真澄が予定通りに3回からマウンドに上がった。長嶋は火消し役を期待したのだが、2回を被安打9で9失点の大乱調だ。火消しどころか、相手打線に火をつけた。その桑田が浴びた満塁弾が、さらなる延焼を呼んだのだ。

「何も言えません。ひどすぎます。何を言っても言い訳になります」

 3番手の左腕・宮本和知が2回を被安打8で5失点、4番手の石毛博史も2回を被安打7で5失点だ。9回、水野雄仁の無失点が救いだった。

 この年は、国民的な人気を誇る長嶋が巨人に復帰してから2年目だった。

 93年の復帰1年目、メディアは「長嶋巨人が優勝しなければプロ野球は衰退する」とまで書き立てた。

 サッカーのJリーグが誕生するなど、プロ野球1強時代に陰りが見えていた。

 しかし同年は、5割に届かず3位だった。13年ぶりのブランクを思えば、Aクラス入りはそれなりに評価されてもよかったが、巨人を取り巻く環境はそれを許さない。優勝争いをしても結果として逃せば、巨人の監督は厳しく批判される。

 球団創設60周年の94年は、4年ぶりの優勝が絶対条件となった。

 長嶋は切り札として三冠王3度の落合博満をFAで獲得。93年は貧打に泣かされ続けたからだ。契約は2年で、年俸は球界最高の4億5000万円である。

 投手陣は桑田、斎藤雅樹、槙原寛己の3本柱を中心とし、リリーフに石毛を抜てきするなど充実していた。長嶋はキャンプ中から「うちの売り物」と自慢していた。

 その投手陣が火だるまだ。「オープン戦は勝負にこだわっていません」と言ったが、94年シーズンの前途に不安が広がった。

 事実、オープン戦の成績は6勝12敗で12球団中11位だった。頼みの綱である落合も、オープン戦後半を11打数無安打で終えていた。

 開幕前の評論家たちによる巨人の順位予想も低かった。40歳の落合を評価する声は少なかった。

 優勝候補の筆頭は野村克也率いるヤクルトだった。V3を推す声が多かった。

 だが、巨人は広島との開幕戦を松井秀喜の2本塁打、落合の移籍第1号などで快勝し、開幕ダッシュに成功した。4月を13勝6敗と大きく勝ち越したのである。

 6月下旬には2位のヤクルトに10ゲーム以上の差をつけた。独走である。

 3月5日の「歴史的大敗」は後になって見れば「春の珍事」となるはずだった。

 ところが巨人は7、8月と連続して負け越した。8月下旬から9月上旬には19年ぶりの8連敗を記録した。

 後ろを振り向くと、7月に10.5ゲーム差をつけていた高木守道率いる中日が、猛烈な追い上げで巨人に並んだ。

「秋の変事」が待っていた。かくして長嶋が「国民的行事」と命名した、史上初となるチーム同率首位の最終決戦「10.8」に持ち込まれた。

 負ければ巨人の60周年Vは消滅し、落合の獲得にも改めて批判の目が向けられる。何より読売のライバル中日に大逆転Vを許すことになる。

 長嶋は懐に辞表を忍ばせて指揮を執り、宙を舞った。長期政権は確実となった。

 国民的行事から4日後の12日、ダイエーは王貞治の監督就任を発表した。88年に巨人監督を解任されて、雌伏6年が経っていた。

 巨人は国民的行事の裏側で、危機管理に動いていた。長嶋が辞表提出となれば大騒動は必至である。

 王がその「ポスト長嶋」として真っ先に候補に上がったという。巨人は何と言ってもONである。

 長嶋のあとは王‥‥これが約束事だった。

 ダイエーが王に接触を開始したのは7月下旬だった。王は「ボクは巨人の人間です。巨人ファンはどう思うだろう」と悩んでいたが、長嶋の長期政権が新天地へ背中を押したのかもしれない。

 1チームの公式戦での1試合最多安打は97年に東尾修の西武がダイエー戦で47年ぶりに更新した、これまた29安打である。得点は21だ。

 オープン戦でやったのがダイエーなら、公式戦でやられたのもダイエーだった。

 (敬称略)

猪狩雷太(いかり・らいた)スポーツライター。スポーツ紙のプロ野球担当記者、デスクなどを通して約40年、取材と執筆に携わる。野球界の裏側を描いた著書あり。

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