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Posted on 2026年03月15日 06:00

プロ野球「オンオフ秘録遺産」90年〈プロ野球開幕戦にはドラマが待っている〉

2026年03月15日 06:00

 絵に描いたような返り討ちだった。ダイエー(現ソフトバンク)の監督・王貞治の眉間に刻まれたシワが深い。

「一方的な試合にならなかったし、まあまあ負けたけど手応えはあった‥‥」

 1996年3月30日の千葉マリン(現ZOZOマリン)、ロッテ対ダイエーの開幕戦で2年目の王がいきなりつまずいた。

ダ 0 0 0 0 2 0 2 0 0=4
ロ 0 5 0 0 0 1 0 0 ×=6

 95年から続くロッテ戦の連敗が「11」に伸びた。前年は5勝21敗。まさにカモにされた対戦成績である。

 開幕前夜の29日、王はロッテの予告先発が11年目の左腕・園川一美と聞いて激怒していた。

「相性とかそんなもんは関係ない。開幕戦は特別なもので格の問題だ」

 そして、続けた。

「まったくなめられたもんだ!」

 ロッテに格下と見られたと受け取ったのだ。ロッテのGM・広岡達朗の発言も怒りの炎に油を注いでいた。開幕前の某テレビ番組で、ダイエーの順位を「よくて5位」と予想していた。

 園川は95年に8勝9敗だったが、ダイエーには強く4勝1敗の成績である。

 同年のロッテは伊良部秀輝、小宮山悟、エリック・ヒルマンの強力3本柱を擁していた。開幕投手は伊良部が最有力だった。

 園川は4番手である。奇襲と言っていい。ロッテ監督の江尻亮は、4月2日からの西武戦をにらんで伊良部温存に出た。周囲の関係者はそう受け取った。

 王は開幕戦をあくまで特別と捉え、開幕投手にエースの工藤公康を立てた。前年、12勝5敗の成績だ。

 王は言った。

「ウチはいちばんいい投手を選んだ。園川起用がうまくいかなかった時は、不協和音が出る」

 試合はロッテが2回にその工藤を攻略した。平井光親の2ランなど、7安打を浴びせて5点を奪った。6回にも仁村徹の一打で追加点を挙げた。

 園川は5回二死から、浜名千広に2ランを浴びて降板した。勝利投手にはなれなかったが、重圧の中で先発の責任を果たした。 ダイエーは7回に小久保紀の、その後はロッテの中継ぎ陣にかわされた。

 絶対に勝たねばならない一戦を落とした。指揮官にとっては屈辱である。

 17年連続Bクラスのチームを引き受けた。95年の1年目は5位だ。

 この年も4月は7勝16敗で借金9。早々に下位に沈んだ。5月9日、日生球場での近鉄(現オリックス)戦に敗れた。

 この時点で最下位。優勝は絶望的だった。試合後、ファンが帰りのバスを囲んで「王、辞めろ!」と生卵を投げつけた。

 広岡の予想は当たった。「よくて5位」は、悪ければとなり‥‥最下位だった。

「世界の王」が数々の試練を乗り越えて宙に舞ったのは3年後の99年だ。

 実は伊良部が故障していたことが明らかになったのは、後になってからである。

 4万人近い観衆を飲み込んだナゴヤドームから大歓声が起こった。

 2005年4月1日、同球場での中日対横浜(現DeNA)の開幕戦は劇的なフィナーレが待っていた。

 中日は0対0で迎えた9回裏、先頭の立浪和義が三浦大輔から三塁打を放って出塁した。投手コーチの野村弘樹がマウンドに走った。三浦に告げた。

「満塁策を取る。腹をくくれ」

 タイロン・ウッズ、福留孝介が歩いて、3個の塁は埋まった。在籍3年目のアレックス・オチョアが打席に立った。

 最低でも犠飛を狙う、アレックスは粘りに粘った。3つのボール球を挟んで、9球をファウルして三浦をジワジワと追い詰めていった。フルカウントだ。

 13球目‥‥三浦にとって142球目だった。精魂が尽き果てた1球は、142キロの真っすぐだった。

 アレックスが捉えた打球は、左中間スタンドで大きく弾んだ。

横 0 0 0 0 0 0 0 0 0=0
中 0 0 0 0 0 0 0 0 4=4

 開幕戦ではセ・リーグ史上初、プロ野球史上2人目となるサヨナラ満塁本塁打となった。

 それ以前に「逆転」の冠が付くプロ史上初の開幕戦サヨナラ満塁弾は94年4月9日、西武・伊東勤が近鉄戦で放っている。

近 0 0 0 0 0 0 0 0 3=3
西 0 0 0 0 0 0 0 0 4=4

 アレックスがお立ち台で吠えた。

「野球人生で初めてのサヨナラ・グランドスラムだ。こんなに応援していただいた皆さんに感謝したい」

 中日監督の落合博満は「あのカウントから直球を予想できたろう。粘り勝ちだ」とほめれば、横浜の指揮官・牛島和彦は「大輔はよく投げた。100点」とねぎらった。

 落合は04年、就任初年度でリーグ優勝を達成し、連覇を狙って2年目のシーズンだ。牛島は就任1年目の初陣である。

 試合は川上憲伸、三浦の両エースによる開幕戦らしい、見応えのある投手戦となった。

 この試合は両軍とも、スタメンの9人から交代はなかった。開幕戦での両軍交代なしは54年以来、51年ぶりだった。

 川上は109球で76年の星野仙一以来、29年ぶりに開幕戦完封勝利を挙げた。

 05年は前年の球界再編騒動を受けて「プロ野球改革元年」である。

 目玉として、セ・パ両リーグが公式戦で戦う交流戦が始まった。ドラフト制度も改革されて、育成ドラフトも設けられた。

 アレックスの満塁弾は改革元年に踏み出す球界の派手な第一歩となった。

 落合中日は連覇ならず2位。優勝は岡田彰布の阪神だった。

 (敬称略)

猪狩雷太(いかり・らいた)スポーツライター。スポーツ紙のプロ野球担当記者、デスクなどを通して約40年、取材と執筆に携わる。野球界の裏側を描いた著書あり。

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