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記事全文を読む→佐藤誠「取調室の裏側」〈32年前の不気味なバラバラ殺人。諸説を覆す「素人犯」の見立て〉
満開の桜がすっかりと散った井の頭公園(東京都三鷹市、武蔵野市)で、94年4月23日に日本中を震撼させる事件が起きた。
公園のゴミ集積場で、清掃員がゴミ袋の中から左足首を発見。通報を受けた捜査員が園内一帯を捜索すると、7カ所のゴミ箱から27個に切断された遺体が次々と姿を現した。
「猟奇的」な事件として注目を集めた理由は、異様なまでの手際のよさにある。遺体は電動ノコギリのような刃物で20センチ間隔に切り揃えられ、血液は抜き取られていた。さらに手足の指紋や掌紋までも削られていたのだ。
回収したゴミ袋には、頭部と胴体の大部分は含まれていなかった。身元の特定は困難を極めたが、のちに被害者は近くに住む30代男性だと判明する。
だが現場の証拠はあまりに乏しく、捜査の出口は見えないまま、09年に公訴時効が成立した。
「猟奇的」な手口のインパクトと「未解決」という結末が相まって、新興宗教の関与や北朝鮮工作員説など、今でも陰謀論が渦巻いている。事件発生から32年の歳月を重ねて思うのは、「素人の犯行」。
俺はそう見立てている。
遺体を細かく裁断し、指紋まで削り取る。一見、執拗なまでに用心深い隠蔽工作に映るが、実は素人の浅知恵に過ぎない。プロならば遺体そのものを深い山中へ埋めるか、海に沈めて処理をするはずだ。
身元を隠す強い意図を持っていながら、衆人環視の公園に平然と投げ捨てる。その支離滅裂な行動こそ、追い詰められた素人が心理的な「パニック」に陥っていた何よりの表れだ。頭部が見つからなかったのも、単なる偶然の結果だろう。
現場周辺で目撃証言も取れていた。被害者の通勤経路である井ノ頭通りで、車が何かに衝突する鈍い音と散乱したガラス片が確認されていたのだ。遺体の一部には、生前に強い衝撃を受けた際の筋肉内出血の痕跡が刻まれていた。
ホシのパニックを裏づけるように、公園近くのコンビニエンスストアで、大量のゴミ袋を購入する不審な二人組の男も確認されていた。組織的な犯行よりは、場当たり的な複数犯によるものと推測される。ホシは人を殺めることには不慣れだが、遺体を切り揃える手際は際立っていた。
食肉加工、ハンターなど「解体作業」に精通した人物が犯行グループにいたことを物語っている。
現代のように防犯カメラが普及し、科学捜査が進んでいれば「未解決」で終わることはなかった。追い打ちをかけたのは翌95年3月の「地下鉄サリン事件」だ。未曾有のテロに一課は総動員され、「井の頭公園バラバラ殺人事件」は三鷹署に引き継がれた。
いくら高い捜査能力を持つ一課といえども、俺たちは万能の神ではない。解決できない事件があるのも、また一つの事実なのだ。
佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。
佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/
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