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長嶋と松井“4番の遺伝子”継承までの21年間「鮮烈すぎるデビュー劇」

 5月5日の松井秀喜の引退式を控えて、ジャイアンツの次期監督候補にも名前が浮上するなど、にわかに周辺も騒がしい。その裏には袂を分かった古巣との軋轢も指摘されるが、鍵を握るのは長嶋茂雄巨人終身名誉監督の動向だ。衝撃デビューから引退時期まで師の教えを守った松井にとって、ミスターの意向は無視することはできない。それほど固い絆で結ばれた師弟愛の原点に迫った。

「何事においても鮮烈な(デビュー)ほど印象が残るもの。もう一人の自分が見られるからね、大物はみんなそうなのよ」

 かつて長嶋茂雄が語ってくれた言葉がある。長嶋は、入団1年目の58年4月5日の開幕戦、国鉄スワローズのエースだった金田正一の前に4打席連続三振というデビュー結果に終わっている。当時の金田をして「空振りをしても空振りをしても、思い切って振ってくる姿に、いつの日かやられてしまう」と脅威を感じたという。

 同じく松井秀喜のデビューもまた“鮮烈”だった。星稜高校3年生で出場した夏の甲子園での対明徳義塾高校戦で5打席連続敬遠という“伝説”をひっ提げて、プロ入り。のちに直接本人にその時のことを確認したところ、松井は誰に恨み言を言うでもなく、「さすが5打席連続敬遠された打者だな、と思われる打者になりたい」と答えたものだった。

 その後、松井の「怪物伝説」を体現したのがルーキーイヤーの93年5月2日のヤクルト戦だった。9回裏、抑えの高津臣吾から打った当たりは、ライトスタンド上段に入る本塁打となった。5対2の3点差で、高津をマウンドに送り込んだ当時の野村克也監督は、

「高校生に毛の生えたヤツがどれだけ通用するのか全部まっすぐで勝負してみろ」と指示していた。

 その采配どおりストレートで攻めた4球目を真芯で捉えたのだ。

 くしくも昨シーズン終了後に現役引退を決意した2人だが、高津は、

「まっすぐをウイニングショット(決め球)にするよりも、シンカーを完成させようと思った」

 と、松井との対戦での“一発”によって、結果的に長い間ユニホームを着ることができたと語った。

 そして、松井の活躍を誰よりも喜んだのは、当時の長嶋監督だった。「ヒーローは必ずライバルを育てる」という長嶋の予言はこの時すでに的中していたのだ。

 試合自体は5対4でヤクルトが辛くも逃げ切ったが、「負け試合であんなに喜んだ(長嶋)監督は見たことがない」と周囲から言われるほどだった。このホームランをきっかけに、7番スタメンだった松井を「巨人の4番」にするための「1000日構想」がスタートしているのだから、決して“単なる一発”ではなかったのだ。

 松井は言う。

「長嶋監督のおっしゃるポツリとしたひと言は、あとですごく役立つことが多かった」

 それは、試合後に連日行った全裸での素振り特訓の時だけではなく、日常接する言葉の端々から受けるものだったに違いない。こんなことがあった。

 巨人入りから10年がたち、FA資格を得ることになった松井はメジャー行きを決意する。

 その記者会見の席上、松井は絶対に言わなければいけないことを手のひらに書いて、記者会見に臨んでいたと、長嶋から聞いたことがあった。「忘れちゃあいけない言葉は手に書いておいたけれど、だいたい忘れちゃっているね」と長嶋は言っていたが、何かの時にこんなことまで伝えていたのかと感心させられたものだ。

「今までは自分のわがままに全て蓋をしてきた。でも、メジャーに行ってプレーをしたいという夢を捨てきれない」という松井の思いは、長嶋にも十分伝わっていたのだ。

 長嶋自身の「若かったら夢を貫きたい」というメジャー志向が松井に託されていたのかもしれない。

 以前から長嶋と松井は何度か食事をしながら、メジャー行きについて語り合った。長嶋は立場上、松井に巨人に残留をするよう説得を試みた。だが、口では「残って巨人のために頑張れ」とは言うものの、「夢を追う男の気持ちに盾を作ってはいけない」と、ジョー・ディマジオの話を出したりして、結果的に「説得とは程遠いものだった」と関係者の一人は言う。

 長嶋が説得すれば大丈夫と思っていた渡邉恒雄読売グループ会長は、「これだけ尽くしているのに何で‥‥」と、松井のメジャー行きに対して激怒したと言われている。

「今は何を言っても“裏切り者”と言われてしまうかもしれないが、いつの日か行ってよかったなと言われるような選手になりたい」

 それだけに、松井はヤンキース移籍を前にこう惜別の念を口にしたのだ。

 

スポーツライター 永谷脩

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