特集

20年来の“心友”が明かす 天才・武豊「屈辱からの逆襲」(2)

Sponsored

20140502takea

 武とキズナのコンビ初戦となったラジオNIKKEI杯2歳Sは3着、次走の弥生賞は5着と、なかなか結果が出なかった。初戦は馬が完成途上だったので力を出せなかった。弥生賞の敗因に関しては、

「上品に乗ろうとしすぎ、結果として失敗した」

 と語っている。前を射程に入れながら、いつでもスパートできるよう綺麗に乗ろうとしたら、十分な進路を確保することができず不完全燃焼に終わった。

 だが、この敗戦でかえって腹を括ることができた。

 ──周囲に合わせることなど気にせず、とにかく、キズナが走りやすいようにしてやればいい。

 そうして、コンビ3戦目、昨年3月23日の毎日杯を迎えた。「前半はゆっくり行き、直線でスパートする」という、シンプルではあるが、キズナが最も力を出せる形で走らせたら、凄まじい末脚で突き抜けた。

 武が不振に陥るきっかけとなった落馬事故に見舞われたのも、その3年前、10年の毎日杯だった

 「毎日杯」にまとわりついていた嫌なものを、キズナが目の覚めるような末脚で、すべて吹き飛ばしてくれた

 次走の京都新聞杯は、ダービーに向けての最終チェックといった位置づけになった。自分らしい走り=最強の走り、であることを、武とキズナは互いに確かめ合った。

 そして、5月26日の第80回日本ダービー。ここでも自分の競馬に徹し、鮮やかな差し切り勝ちをおさめた。

「ぼくは帰ってきました」

 スタンド前のお立ち台で、武は力強く言った。

 そこに帰ってくる過程で年間200勝を楽に超えていたころの自分のVTRを見て、今の自分とどこが違うのか考えたり、トレーニングに理学療法士の指導をとり入れたり、フォームを微調整したりと、試行錯誤を繰り返した。

 1センチでも前に出るために、日本で初めてエアロフォームを着用したのは、ほかならぬ彼だったどれだけ効果があるか定かではなくても、やれることはすべてやる「見えないところでもがき続け、涼しい顔で勝つ」というのが、彼が20代のころから持ち続けている勝負師としての美学である彼は、苦しみながら、人知れずもがき続けていた

 その結果、13年は、トーセンラーでマイルCSを勝ち、GI通算100勝という金字塔を打ち立てるなど「らしさ」を取り戻し、年間97勝をマークした。まだリーディングに返り咲いてないので「完全復活」ではないにせよ、「復活」したことは間違いない。

 急激に騎乗馬の質が上がったわけではない。「もし、彼の騎乗馬にほかの騎手が乗ったら、年間50勝もできないのではないか」というラインナップだ。にもかかわらず、100勝近く挙げたのはなぜか。当たり前だが、腕がいいからだ。あり得ないタラレバだが、おそらく今の彼なら、10年や11年の騎乗馬でもこのくらい勝っていただろう。あのころの彼が「武豊」らしいパフォーマンスを発揮できなかったのは、10年の落馬で骨折した左肩に痛みが残っていたからだと思う。

 単純な帰結になってしまうのだが、どうしてまた武が勝つようになったのか訊かれたら、私はいつもこう答えている。

「肩の痛みがなくなって、自分らしい騎乗ができるようになったからでしょう」

 彼が10代、20代のころにのし上がったのも、同じ手法だった。ほかの騎手では折り合えなかったり、動かせなかった馬で次々と結果を出してきたからだ。

 今、彼は、その作業を、一から地道にやり直しているのである。

◆作家 島田明宏

カテゴリー: 特集   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
JR東日本に続いて西と四国も!「列車内映像」使用NG拡大で「バスVS鉄道旅」番組はもう作れなくなる
2
【ボクシング】井上尚弥「3階級4団体統一は可能なのか」に畑山隆則の見解は「ヤバイんじゃないか」
3
これはアキレ返る!「水ダウ」手抜き企画は放送事故級の目に余るヒドさだった
4
舟木一夫「2年待ってくれと息子と約束した」/テリー伊藤対談(3)
5
また出た!広島カープに「ベテラン選手の不倫デート発覚」下半身コンプライアンス崩壊