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記事全文を読む→「デスノート」も登場して…香取慎吾が見せた驚きの新境地/大高宏雄の「映画一直線」
香取慎吾が「凪待ち」以来、3年ぶりに主演した「犬も食わねどチャーリーは笑う」が面白かった。随所で笑い、面白さの中から、胸にジーンと迫ってくるものがあった。こういう場では不似合いな言葉だが、とても「好きな作品」だった。
夫婦2人のすれ違い、そこを起点に随所に織り込まれたユーモア、伏線の張り方などに、全く淀みがない。話の展開、描写の緩急の弾み具合が、実に心地よい。
見終わった後に、涼風が体全体に染み込む感覚があった。それは、夫婦にとどまらない人間同士の関係性の奥深さへと広がる確かな視点、描写力を、映画が持っているからにほかならない。
香取演じるホームセンターの副店長・裕次郎と、岸井ゆきの演じる日和が、喫茶店で2度目に出会うシーンが惚れ惚れする。2人は少し離れた席にいるのだが、距離をすぐに詰めない。この微妙な距離感に、独特な味わいがある、
裕次郎はすぐに、日和が席で見せた意外な態度を口にする。態度も意外なら、それに気付いた裕次郎の繊細な人間性もわかるシーンだ。続けざまに彼の得意な蘊蓄話が出て、席の間隔を含め、2人の距離が一気に詰まっていくのである。
本作は、月日が経ち、夫婦になって以降の2人の話が中心だ。当然、すれ違いが出てくる。日和は、ある決定的な不満をかかえて、「旦那デスノート」をSNS上に上げる。裕次郎は、ホームセンターのアルバイトの女性に慕われるようになる。
そこから生まれる結末を言うわけにはいかないが、先の2度目の出会いのシーンが、終盤の伏線になっていることだけは指摘しておきたい。
なぜ2人は、互いに惹きつけられたのか。裕次郎の蘊蓄話と、その言葉を素直に受け止める日和。ここにこそ、2人の見えないつながりの原点がある。それが、ラストで意表をついた2人の共同作業につながるのだ。
裕次郎には欠点もあるが、いわゆるダメ人間ではない。仕事もそつなくこなす。蘊蓄話は特技のひとつだが、どこにでもいる男、という設定だろう。
妻との関係に一時は悩むが、妙な深刻さには陥らない。その上に立って現実と向き合い、「逃げない」自分を見出す。果敢に行動する。
香取は新境地の演技を見せたと思う。香取と裕次郎が、まるで同一人物に見えてくる趣さえあった。俳優は役によって演じ分けるわけだが、香取の裕次郎役には、それを超えた瞬間が何度もあった。
日和役の岸井が、裕次郎に対して譲れない一線を抱える難しい役を、生き生きと演じてみせたのも見事だった。香取とのコンビネーションも、本作の大きな魅力となっている。
「犬も食わねどチャーリーは笑う」とは、とっつきにくいタイトルだが、この世知辛い世相で、「いい意味で」(本作のキーワード)気持ちがなごむ作品である。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2022年で31回目を迎えた。
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