動物園のサル山で群れをなす猿たちの、喜怒哀楽あふれる表情に驚かされることがある。人間同様にコミュニケーションを図るため、感情を表に出すことは少なくない。
例えばチンパンジーは357種類もの表情を持つとされ、犬も顔の動きとの組み合わせにより、27の表情を作っていることが、研究により明らかになっている。
では、犬と並んでペットの主流となっている猫はどうか。その表情に関する研究は、大半が人間との相互作用に焦点を当てたものだったため、実際に猫が何種類の表情を持つのかを示すデータは、長らく存在しなかった。
これを解明したのが、アメリカ・ライオン大学の比較進化心理学者ブリタニー・フローキーウィッツ氏。「猫には276種類の表情がある」とする論文を、学術誌「Behavioural Processes」に発表しているのだ。当然ながら、世界の動物学者は興味津々で…。
論文によれば、フローキーウィッツ氏は研究室の共同主任研究員とともに、カリフォルニア州ロサンゼルスの猫カフェに通い詰め、猫同士のやりとりを194分間にわたって記録。その後、人間の心理学で使用される、顔の動きを機械的にコード化するツール「Facial Action Coding System」で個々の動きを分析した。
すると猫の顔の筋肉には26種類の動きがあり、これらを組み合わせて276通りの表情を作り出していることが判明。さらに表情を細かく分析したところ、46%が友好的で37%が非友好的、残り17%はその両方の表情に分類される、という結果が導き出された。
友好的な表情としては「耳とヒゲを前に向ける」「目を閉じる」などがあり、特にヒゲを前に向けている時は、満足して幸せを感じている証。逆に口を舐める、あるいは瞳孔を細めて耳を寝かせている状態は、非友好的な気持ちを表すことがわかったという。
ただ、この研究で猫の表情すべてが判明したわけではなく、いまだ謎は残されている。研究チームは今も、猫たちがこれらの表情を使い、どのようなコミュニケーションをとっているかについて、追跡調査を継続中だ。
ちなみに猫が見せる友好的な表情は、猿や犬と類似しているという。犬猿の仲ならぬ犬と猫とのいがみ合いも、コトによるとお互いの表情を読み取れるから…なのかもしれない。
(灯倫太郎)