昨シーズンまでは、好機での機動力を武器に数々のビッグプレーを演出してきた広島カープだが、今年は足を絡めた攻撃がパッとしない。
象徴的だったのは、5月18日の阪神戦。1-0とリードして迎えた6回表、二死三塁の場面での、中村奨成の本盗企図である。
4番・末包昇大を迎えた打席は、まさに絶好の局面だった。三塁走者の中村は阪神・伊原陵人のモーションに反応し、一瞬の隙を突いてスタートを切る。しかし、捕手・坂本誠志郎の正確かつ素早い反応で、ホームでのタッチアウトとなった。その直後に失点を許し、一気に試合の主導権を奪われる結果となっている。
試合後、新井貴浩監督は「思い切っていったが、流れが変わったのは私のミス」と責任を一身に背負った。赤松真人外野守備走塁コーチも「隙があればいくという方針通りで、奨成本人に落ち度はない」と、中村を擁護した。
データが示す通り、今季の広島は公式戦40試合を消化した時点で盗塁14、盗塁死15。計29企図で、成功率は約48.3%だ。これはセ・リーグ平均の65%を大きく下回っており、ビッグプレーを生む機会を逸している証左である。
「本盗」は単なるスピード勝負ではなく、相手バッテリーのモーションや癖を読み切る洞察力が要諦だ。意外に思うかもしれないが、あの名捕手・野村克也は、通算117盗塁。「相手の虚を突く」走塁の妙技を見せている。決して足が速いイメージはないが、相手を見抜く洞察力は一級品だったのだ。
今回の中村のチャレンジについて、野球評論家の江本孟紀氏は、
「狙い自体は理にかなった策。タッチアウトはタイミングの差。失敗は仕方ないし、チャレンジ精神は評価すべきだ」
それでも現実は厳しい。首位・阪神とは1.5ゲーム差に広がった。走塁判断の精度を高め、データ分析と経験を武器に、再び「隙」を突く勝負に出られるか。新井カープの真価が問われることになる。
(ケン高田)