夏の駅のホームに立つと、隣の人が使っているハンディファンの動作音がやけに耳につく時がある。通勤電車の中でも同じだ。通販サイトを開けば2000円から4000円の商品が画面いっぱいに並ぶが、画面上の説明だけでは性能や品質の違いが見えにくい。そこ...
記事全文を読む→「世代論」で読むプロ野球〈ハンカチ世代・続〉(1)世代の代名詞になった少年
マウンド上で青いハンカチで汗を拭く。高校球児の泥臭いイメージを払拭した涼やかな少年は、「ハンカチ王子」の異名で同世代を代表するプロ選手となった。だが、高校時代のできすぎた活躍はプロ入り後、鳴りを潜める。過剰な期待という十字架を背負わされた男の幕切れを振り返る。
「ハンカチ世代」という呼び名には、どこか不思議な響きがある。田中将大、前田健太、坂本勇人、柳田悠岐、秋山翔吾、大野雄大‥‥のちに球界の中心へ駆け上がっていく1988年度生まれの選手たちを束ねる言葉が、豪速球でも、ホームランでも、怪物でもなく、「ハンカチ」だったのだから。
だが、あの2006年夏を知る者なら、その理由を説明されるまでもない。早稲田実業の斎藤佑樹は、甲子園のマウンド上で青いハンカチを使って汗を拭った。その仕草は、涼しげで、上品で、どこか物語めいていた。高校野球の熱気と泥臭さの中に、突然、違う種類のスターが現れたように見えたのである。
決定的だったのは、駒大苫小牧との決勝だった。斎藤と田中。延長15回引き分け、翌日の再試合。そして再試合の9回2死、早実が4対3とリードする場面で、マウンドに斎藤、打席に田中という、野球の神様が少し悪ノリしたような構図まで用意された。斎藤自身も後年、その場面が「できすぎた幕切れ」(ウェブスポルティーバ・22年11月18日)と語られる意味はわかっていたと振り返っている。
ただ、その瞬間から斎藤は、ひとりの高校生投手ではいられなくなった。彼は「早実のエース」であると同時に、「ハンカチ王子」になった。さらに厄介なことに、彼の名前はひとつの世代の看板にもなった。普通なら高校野球の優勝投手という栄光で十分すぎる。
ところが斎藤の場合、その栄光がそのまま人生の比較基準になってしまった。あの夏の斎藤より輝けるのか。田中に勝った投手として、プロでも勝てるのか。世間は勝手に物差しを作り、彼をその上に置いた。
ここに、斎藤が背負った十字架がある。それは「甲子園で勝ったこと」そのものではない。勝ち方が美しすぎたことだ。ライバルが田中だったことだ。名前が時代の記号になってしまったことだ。多くのスターは、成長しながら注目を集める。だが斎藤は、完成された神話として世間に認められた。18歳の青年にとって、それは祝福であり、同時に逃げ場のない重荷でもあった。
ゴジキ:野球評論家・著作家。著書に「データで読む甲子園の怪物たち」(集英社新書)と「マネジメント術で読むプロ野球監督論」(光文社新書)ほか。発売前から重版となった最新刊「システムで読む甲子園」(カンゼン)が絶賛発売中。Yahoo!ニュースエキスパート。
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