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記事全文を読む→「世代論」で読むプロ野球〈大谷・誠也世代・続〉(4)大谷とは別軸の「世界基準」
鈴木は決して「大谷に隠れた才能」ではない。ただ、この表現は半分正しく、半分危うい。正しいのは、同じ世代に大谷翔平がいたことで、鈴木の凄さが相対的に語られにくくなったという点である。大谷は投打二刀流でメジャーを席巻し、野球史そのものを更新してしまった。その隣に立てば、どんな一流選手でも影が薄くなる。これは仕方がない。
危ういのは、鈴木を“大谷の補足説明”にしてしまうことだ。鈴木誠也は、大谷とは別の問いに答えた選手である。大谷が「二刀流はメジャーで成立するのか」を証明したなら、鈴木は「日本人右打者はメジャーで中軸級の長打力を発揮できるのか」に挑んだ。そして、その答えを少しずつ肯定に変えている。
この挑戦の難しさは、もっと評価されていい。左打者であれば、一塁までの距離や打球方向の面で有利な場面もある。だが右打者は、内野安打で数字を稼ぐタイプにはなりにくい。真正面から打球の強さ、角度、選球眼、対応力で勝負しなければならない。
鈴木は、その条件の中で20本塁打以上を複数年続け、25年には30本塁打、100打点のラインにも到達した。26年のWBCでは、4試合、3安打、2本塁打、5打点、6四球、1三振。打率・333、出塁率・600、長打率1.000、OPS1.600だった。15打席で6四球を選びながら三振は1度だけという内容は、相手が勝負を避ければ出塁し、ゾーンに入れば長打にするという、短期決戦での圧力を端的に示している。
鈴木の打撃には、豪快さと繊細さが同居している。フルスイングの迫力がある一方で、ゾーンの見極めもできる。逆方向にも強い打球を飛ばせるため、単純な引っ張り専門の打者ではない。
NPB時代から高い出塁率を残してきたことも、メジャーで生き残るうえで大きかった。長打を狙いながら、ボール球を振らない。強く振りながら、打席の中で修正する。このバランスが、鈴木を単なるパワーヒッターではなく、世界基準の打者にしている。
大谷・誠也世代の面白さは、ひとつの才能の形に収まらないところにある。大谷翔平は、規格外の二刀流として野球の天井を押し上げた。藤浪晋太郎は、高校時代に世代最強の投手として甲子園を支配した。そして鈴木誠也は、右の大砲として日本からメジャーへ渡り、毎年のように長打と打点を積み重ねている。
この世代を「大谷世代」とだけ呼ぶと、物語はわかりやすくなる。しかし「大谷・誠也世代」と呼ぶと、見えてくるものが変わる。そこには、異次元の天才だけでなく、日本のトップ打者が世界基準へ自分を合わせていく過程がある。鈴木は、大谷の影に隠れた存在ではない。大谷とは違うルートで、日本野球の可能性を広げた選手である。
メジャー志向のトップ選手として、鈴木は今も証明を続けている。派手な比較では大谷に勝てないかもしれない。だが、右打者として、外野手として、中軸候補として、メジャーで何年も数字を残すことの価値は別物だ。大谷が野球の常識を壊したなら、鈴木は日本人右打者の評価を少しずつ更新している。
その意味で、鈴木は「隠れた才能」ではなく、「見落とされがちな偉業」の選手なのだ。94年度生まれの世代を語る時、大谷翔平の名前から始まるのは当然である。
だが、その物語を大谷だけで終わらせてはいけない。右の大砲・鈴木誠也が世界で積み上げている数字と適応力こそ、この世代が本当に“世界基準”へ到達した証明なのである。
ゴジキ:野球評論家・著作家。「データで読む甲子園の怪物たち」(集英社新書)ほか著書多数。「マネジメント術で読むプロ野球監督論」(光文社新書)が重版出来。発売前から重版となった最新刊「システムで読む甲子園」(カンゼン)が絶賛発売中。Yahoo! ニュースエキスパート。
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