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さらにイライラ現場の描写は続く。
〈数分前に薬を飲んだばかりだというのに、それを覚えていないことがあった。
(中略)
「ほら、ペコ、今日はもう飲んだでしょ」
「飲んでないわ」〉
「ぺコ」とは、大山の愛称である。
〈おそらく、彼女は5分前といった、ほんの少し前のことですら分からなくなってきているようだ。(中略)何度言い聞かせても、カミさんは絶対に認めようとしない。そのうち、僕もカッとなって、つい怒鳴ってしまう。「いい加減にしてくれよ、ペコ! 他の人が飲むわけないだろ!」
一瞬、部屋の空気が凍りつくのが自分でも分かった〉
自宅の階段の踊り場には大便が点々と落ちていたり、トイレでもきちんと用を足すことができず、そこらじゅうが汚れていたり、あるいはお尻を拭かずに下着を上げて、下着に大便がついていたりも‥‥。そんな時、砂川は、「誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!」という言葉を、何度もグッと飲み込んだという。
介護するほうが感情的になると、患者本人もいこじになる悪循環を生む。介護老人保健施設「ぶんすい」施設長で山梨大学医学部の田村康二名誉教授(内科医)が言う。
「隠したいのは人情ですが、隠すとお互いのコミュニケーションがますます悪化し、病状が進む。大切なことは人間的な接触です」
これに気づいた砂川も、著書でこう書いている。
〈第三者に話すことで自分の気持ちを整理し、己を客観的に見つめられるようになると考えた〉
その結果、公表後は自分でも驚くほど優しく接することができるようになったという。
大山は砂川が自宅で料理をしていると、そばでじっと見ている。砂川が言う。
「年で体が縮んでいるせいか、小さくなった状態で僕を眺めている。それを見た時、これは娘だな、姉から娘に変わったな、という思いを抱きました」
砂川が寝るのは夜11時頃。別々の寝室だが、大山は機嫌よく砂川の部屋を開けて「おはようございます」と入ってくるという。「違うだろ、おやすみなさいだろ」と言うと、「あっ、そうね」と大山。ある日、大山がドアを開けると同時に、機先を制して砂川が「おはようございます」とやったらケタケタ笑いだし、
「私が先に言おうと思っていたのに、言われたんじゃ何もなんないじゃない」
自分が「おはようございます」と言ったことが記憶にある‥‥まるで健常者のようにしゃべったのだ。
「それをね、20回くらいやったかな。そのつど、笑って、機嫌よくして自分の部屋に帰っていった。子供に接しているようで、ほほえましいんです」(砂川)
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