スポーツ
Posted on 2016年12月07日 12:56

「ミスター・長嶋茂雄」を育んだ佐倉ものがたり(6)阪神の藤村富美男に憧れた

2016年12月07日 12:56

20161208k2nd

 1936年2月20日、千葉県印旛郡臼井町(のち佐倉市に編入)で、長嶋茂雄は産声を上げた。長女・春枝、長男・武彦、次女・藤枝に次ぐ四番目の末っ子だった。

 長嶋は誕生日について聞かれると、決まってジョークを飛ばす。

「生後6日目に日本中を震撼させた二・二六事件が起きるんです。あの日は、たしか雪が降っていましたよ、はい(笑)」

 2600グラムと小さかった赤ん坊は、印旛沼のほとりですくすく育つ。南風が吹くと、沼の水が北へ北へと押しやられ、土が剥き出しになり、ウナギがのたうち回った。茂雄はウナギを手づかみし、バケツに放り込む。夕飯のご馳走になったのはいうまでもない。

 剥き出しになった砂地は、陽に照らされ、自然のグラウンドになり、子供たちは三角ベースに興じた。

 反対に強い北風が吹くと、母・ちよが叫ぶ。

「茂雄、きょうは白波だ。早く帰ってこんと、波にさらわれて死んじゃうぞ!」

 好きな三角ベースができなかった茂雄は7歳上の兄・武彦と家の前でキャッチボールを始める。

 小、中学校時代の同級生、小林光男が思い出す。

「武ちゃん(武彦)が投げる速い球を、茂雄ちゃんは緑色のグラブでバシッ、バシッと受け止めました」

 茂雄にとって緑色のグラブは、父・利からプレゼントされた宝物であった。

 武彦は地元の野球チーム「ハヤテ・クラブ」の1番・レフト。チームメートの斎藤栄一によると、俊足・強肩の外野手だった。

「武ちゃんは試合や練習にいつも茂雄ちゃんを連れてきていました。茂雄ちゃんも武ちゃんにくっついて離れませんでした。武ちゃんがいなければ、茂雄ちゃんは野球選手にならなかったでしょう。茂雄ちゃんは俊敏で、目が良かった。足腰も柔らかいので、どんなゴロにも対応し、内野手向きだと思いました」

 長嶋義倫が振り返る。

「小学校の高学年になると、茂雄ちゃんと一緒に後楽園の巨人対阪神戦をよく観に行きました。京成電車で船橋まで行き、総武線に乗り換えて水道橋で降りる。電車賃は合わせて3円。内野席の入場料は大人が15円で子供が7円。茂雄ちゃんは阪神の藤村富美男(三塁手。本塁打王3回。打点王5回)の大ファンでした」

 藤村の攻守にわたるアグレッシブなプレーが好きで、自分の部屋に写真をベタベタ貼り付けていたという。のちに「ミスタージャイアンツ」と呼ばれる長嶋が、阪神びいきで、「ミスタータイガース」と称された藤村の大ファンだったというから面白い。

松下茂典(ノンフィクションライター)

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2025年03月23日 05:55

    胃の調子が悪い─。食べすぎや飲みすぎ、ストレス、ウイルス感染など様々な原因が考えられるが、季節も大きく関係している。春は、朝から昼、昼から夜と1日の中の寒暖差が大きく変動するため胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスが乱れやすく...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月18日 05:55

    気候の変化が激しいこの時期は、「めまい」を発症しやすくなる。寒暖差だけでなく新年度で環境が変わったことにより、ストレスが増して、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮し、脳の血流が悪くなり、めまいを生じてしまうのだ。めまいは「目の前の景色がぐ...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月25日 05:55

    急激な気温上昇で体がだるい、何となく気持ちが落ち込む─。もしかしたら「夏ウツ」かもしれない。ウツは季節を問わず1年を通して発症する。冬や春に発症する場合、過眠や過食を伴うことが多いが、夏ウツは不眠や食欲減退が現れることが特徴だ。加えて、不安...

    記事全文を読む→
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2025/7/22発売
    ■620円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク