政治
Posted on 2019年09月26日 09:55

歴代総理の胆力「近衛文麿」(2)「近衛は弱いね」と昭和天皇

2019年09月26日 09:55

 遺体発見の前日にしたためられたと見られる昭和20(1945)年12月15日の2男宛に残された遺書には、自らは戦争回避に全力を尽くしたが、いま軍事法廷に引き出されることへの屈辱感が、次のように記されている。

 一切の弁明をせず、文官として唯一人、従容として絞首台に消えた2代前の広田弘毅の責任の取り方とは、大きな差があったとともに、そこには近衛のリーダーとしての性格の弱さを窺うことができる。

「僕は支那事変以来多くの政治上過誤を犯した。之に対して深く責任を感じて居るが、所謂戦争犯罪人として米国法廷に於て裁判を受ける事は、堪(た)え難いことである。殊(こと)に僕は支那事変に責任を感ずればこそ、此事変解決を最大の使命とした。そして、此解決の唯一の途は米国との諒解にありとの結論に達し、日米交渉に全力を尽くしたのである。その米国から今犯罪人として指名を受ける事は、誠に残念に思う。(中略)」

 この近衛自殺の報告を受けた昭和天皇は瞑目したあと、ポツリと言ったそうである。

「近衛は弱いね」

 また、当時の新聞も一国のリーダーたる者は、その神経のこまやかさの一方で、ある種のず太さがなければ務まらないとも指摘した。例えば、毎日新聞(昭和20年12月18日付)は、

「(近衛)公の性格はその弱さと反省的なところが、悲劇の主人公に出来ている。つまり、疾風怒濤時代の政治家として、公はすべての欠陥を暴露したのだった。公を大政治家気取りにさせたところに、時代の責任がある。いわば、(公は)家柄にない役を演じた」

 第1次内閣をスタートさせた直後、近衛は高らかに「国際正義に基づく真の平和を希求する」と声を上げたものだった。しかし、その1カ月後に「盧溝橋事件」が勃発すると、これを機に次々と失態をみせるのだった。

 近衛に対する評価は、多く「軍部に抗したリベラリスト」とする一方で、「安易なポピュリズムのもとで国の行方を誤らせた戦犯」といった見方に二分されている。その人間性と合わせ、“失態史”は次回で。

■近衛文麿の略歴

明治24(1891)年10月12日、飯田橋生まれ。京都帝国大学在学中に世襲で貴族院議員。貴族院議長、訪米してフーバー、ルーズベルトの前・現大統領らと会見。大政翼賛会総裁をはさみ内閣組織。総理就任時、45歳。昭和20(1945)年12月16日、毒物により自殺。享年54。

総理大臣歴:第34代1937年6月4日~1939年1月5日、第38・39代1940年7月22日~1941年10月18日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2026年09月14日 11:30

    AIは本当に人類を終わらせるのか。専門家のとある主張が世界を震撼させている。その「AI終末論」は、AI開発企業アンソロピックに勤めていた元研究員、ジェイコブ・コクソン氏によるもの。Xで「AI研究関係者の多くが、AIは今後10年以内に人類を破...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    事件
    2026年09月16日 20:30

    「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物「エトミデート」は、広島カープに大きな衝撃を与えた忌まわしいブツだ。元広島カープの羽月隆太郎氏にこれを譲り渡したとして医薬品医療機器法違反の罪に問われた会社役員・滝口涼介被告の初公判が9月16日に広島地裁で...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    社会
    2026年09月17日 07:15

    20世紀最大級のミステリーと言われてきた、イギリス・スコットランドのネス湖に生息するという未確認動物(UMA)の「ネッシー」に、再び熱い視線が注がれている。いったいなぜか。一時期は目撃情報が激減し、専門家からは死亡説や、人間の活動を警戒して...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/9/15発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク