特集
Posted on 2014年05月02日 09:59

20年来の“心友”が明かす 天才・武豊「屈辱からの逆襲」(1)

Sponsored
2014年05月02日 09:59

20140502takea-2

「2011年度JRA馬事文化賞」も受賞した作家・島田明宏氏が武豊騎手と初めて出会ったのは90年4月だった。以降、20年以上にわたり、公私でつきあうようになる。その“心友”島田氏が「誰も書かなかった 武豊 決断」を上梓。そこには、武豊の真実の姿が描かれていた──。

 この春、武豊騎手を描いた『誰も書かなかった 武豊 決断』を上梓することになった。彼に関する私の本としては、97年の『「武豊」の瞬間』以来17年ぶりの書き下ろしとなる。

 17年前の武は、ありとあらゆる記録を更新し、翌年にはダービー初制覇を遂げるなど、強烈な上昇気流に乗っていた。当時28歳。また、97年というのは、JRAの売上げが4兆円を突破した、競馬ブームのピークと言える年でもあった。

 その後、17年という時間が、武と競馬をめぐる状況を大きく変容させた。

 武は30代前半、アメリカとフランスに騎乗ベースを移し、再び日本に腰を据えた03年、「不可能」と言われていた年間200勝を達成。04年には「僕はこういう馬を探していた」と言ったディープインパクトに出会い、翌05年、無敗のまま三冠を制した。

 その後もトップをひた走っていたのだが、10年春の落馬負傷を機に、それまでのようには勝てなくなってしまう。怪我による4カ月のブランクがあった10年は69勝、11年はデビュー以来最低の64勝、そして12年はワースト記録を更新する56勝。騎乗馬の質が下がったため結果が出せず、さらに馬の質が下がるという悪循環にはまってしまった。

「天才」の名をほしいままにしてきた武が初めて味わう「どん底」だった。そのとき彼は、苦しみながら、何を考え、どう競馬に向き合っていたのだろうか。

 私が知る限り、彼自身、「不振」と口にするようになったのは、11年の終わりごろか、12年になってからの夏に話したときには、「最近、勝ち鞍が減っているけど‥‥」

 と水を向けても、

「そうかな周りに言われるほど、ぼく自身は調子が悪いとは思っていないんですけどね」

 と苦笑するだけだった

 実は、こうして、いいことも悪いこともすべて均等に受け入れ、ひとつの悪いことだけを大きくとらないよう自身をコントロールするのが「武豊流」なのである。そうして舞い上がりもせず、落ち込みもせずにいる「楽観力」とでも言うべきもので様々な局面を乗り切ってきたのだが、それが12年の秋ごろから変わってきた。

 それまではおそらく、

 ──馬に乗って競走するという、自分のやることは20代のころや200勝していたころと変わらないのだから、同じことを同じように頑張ればいい。

 と考えていたはずだ。

 それが一歩進んで、「勝てなくなった自分」を客観視したうえで受け入れ、

 ──このままではいけない。変わらなくては。

 と思い始めた。

 自然にそうなったわけではなく、確かなきっかけがあった。

 それは、トレイルブレイザーで臨んだ11月3日のブリーダーズカップターフ、である。武本人は、

「変わってきたのはブリーダーズカップのころから」

 という言い方をしているが、明らかに、アメリカで彼はいろいろなものを取り戻し、再浮上のきっかけをつかんだ。そのあたりの経緯や、私とのやり取りなどをこの本に書き込んだ。

 再浮上のきっかけをつかんだことにより、それまでの自分がいい状態ではなかったことを認める気になった、という部分も当然あっただろう。

 騎手というのは、自分の腕力や脚力を競うわけではないので、自分だけの力で勝ち鞍を伸ばすことはできない。質のいい騎乗依頼をしてくれる馬主や調教師などの「人」と、それ以上に、ともに戦う「馬」とともに、浮上していくことになる。

 きっかけをつかんだ彼の前に、大きく羽ばたくチャンスをプレゼントしてくれる、才能豊かな若駒が現れた。そう、キズナである。

◆作家 島田明宏

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
アサ芸チョイス
社会
2025年03月23日 05:55

胃の調子が悪い─。食べすぎや飲みすぎ、ストレス、ウイルス感染など様々な原因が考えられるが、季節も大きく関係している。春は、朝から昼、昼から夜と1日の中の寒暖差が大きく変動するため胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスが乱れやすく...

記事全文を読む→
社会
2025年05月18日 05:55

気候の変化が激しいこの時期は、「めまい」を発症しやすくなる。寒暖差だけでなく新年度で環境が変わったことにより、ストレスが増して、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮し、脳の血流が悪くなり、めまいを生じてしまうのだ。めまいは「目の前の景色がぐ...

記事全文を読む→
社会
2025年05月25日 05:55

急激な気温上昇で体がだるい、何となく気持ちが落ち込む─。もしかしたら「夏ウツ」かもしれない。ウツは季節を問わず1年を通して発症する。冬や春に発症する場合、過眠や過食を伴うことが多いが、夏ウツは不眠や食欲減退が現れることが特徴だ。加えて、不安...

記事全文を読む→
注目キーワード
最新号 / アサヒ芸能関連リンク
アサヒ芸能カバー画像
週刊アサヒ芸能
2025/7/22発売
■620円(税込)
アーカイブ
アサ芸プラス twitterへリンク