芸能
Posted on 2017年03月26日 17:57

さあ一丁、ブワァーっと植木等だ!(1)「スーダラ節」の歌詞に激怒

2017年03月26日 17:57

 ニッポンの元気印は、間違いなく「植木等」に集約される。誰もが明るい未来を信じていた60年代、スイスイスーダララッターと鼻歌を歌い、高度経済成長期の水先案内人となった。戦後芸能界のスーパースターの死から10年、今こそ閉塞感に満ちた世の中に、あの豪快な笑い声が求められている。

「いよおっ!」

 昭和32年3月、待ち合わせ場所の内幸町駅前。植木等は「無責任シリーズ」の主人公さながらに、右手を大きく上げて、陽気な声とともに現れた。

「すごい人だなあ‥‥」

 あっけにとられる犬塚弘を前に、その男はいきなり話を始める。

「昨日、落語の『小言幸兵衛』を聴いたんだけど、これがおもしろくてねえ」

 犬塚は戦後芸能史に足跡を残した「ハナ肇とクレージーキャッツ」のベーシストとして活動し、現在、唯一の健在メンバーとして植木等を語る。

「こちらのことはお構いなしに、ずっと落語の話をしているんだよ。最初は1メートルくらい距離があったのが、しまいには10センチまで顔が近づいて、ツバがバンバン飛んでくる。そして落語のオチまで言ってしまった。俺が『ところでお名前は?』と聞いたら、初めて『あ! 植木等って言うんだよ』だったから」

 犬塚がハナ肇に誘われ、新しいバンドメンバーを探しに2人で見に行ったフランキー堺のバンドにいたのが、ギターの植木とトロンボーンの谷啓だった。

 谷に続いて植木もクレージーに加わったのが昭和32年のこと。マネージメントを「渡辺プロダクション」の総帥として一大帝国を築く渡辺晋が引き受け、本格的なコミックバンドとして好評を博す。

 そして昭和36年、6月に日本テレビで「シャボン玉ホリデー」が始まり、初シングル「スーダラ節」が8月に発売されると、クレージーと植木等の人気は国民的なものになった。

〈鳥の鳴かない日はあっても『スーダラ節』を聴かぬ日はない〉

 クレージーの構成作家であり、多くの作詞も手掛けた青島幸男がそう表現した。日本中の子供からお年寄りまで、誰もが手をブラブラさせながら「♪スイスイスーダララッタ、スラスラスイスイスイ~」と歌っていたのだ。

 当時の国民だけでなく、今をときめく星野源がステージでカバーするなど、「スーダラ節」は世代を超えて愛されている。皮肉にも唯一、異を唱えたのが植木自身であったと犬塚は言う。

「植木屋(愛称)はディック・ミネさんに憧れていたくらいだから、低音を生かした正統派の歌手になりたかった。それが『スーダラ節』の歌詞を見た瞬間、『何だ! 冗談じゃないよ、こんな歌!』と尋常じゃない怒り方だった」

 植木は譜面を持って帰り、浄土真宗の住職である父親の前で歌って聴かせた。そして父親は、意外な反応を見せたと犬塚は言う。

「植木屋が『なあ、ひどいだろ?』と聞いたら『うーん、これはすごい!』と一言。歌詞の『わかっちゃいるけどやめられない』が親鸞聖人の教えにも通じると言われて『これを書いた青島幸男は人生哲学をわかっている。お前、これは売れるぞ!』と丸め込まれちゃったそうだ」

 ふだんの植木は、無責任男とは真逆の「物静かで常識的な人物」と誰もが声を揃える。それでも父親の一言に「商売」として植木等に徹することを知った。

 そしてバラエティ番組や主演映画における植木の笑いは、青島の言葉を借りれば「日本の喜劇の天地が逆転した」ほどの衝撃をもたらす。

〈それ以前の人情話や世話物の流れをくむ自虐的性格の持ち主であったのに対し、あたかも我が国の高度経済成長と同じくするように、行動するのであります〉

 植木は“時代”にも愛される喜劇人となった。

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