さて、ヨンヒが普天のブローカー宅に身を潜めて3日目の夜だった。いつものジャガイモご飯を食べていると、ブローカーの妻が声をひそめて言った。「ヨニちゃん、今晩よ」ヨンヒはリュックを確認した。大事に使っていた黒字に白の水玉模様の日本製リュックだ。...
記事全文を読む→北朝鮮
翌日も雨はやまない。鴨緑江の水かさは増しているに違いない。ここまできていながら、渡れないかもしれない。いや、悪天候だから監視は緩いはず。うまくいくに決まっている。あれこれ想像をめぐらせているうち、ヨンヒは寝つけなくなったが、どこか安心してい...
記事全文を読む→ついに運命の日がやってくる。最愛の母に別れを告げ、ヨンヒは「脱北」へ向け、周到な準備をした。金正日お抱え占い師のアドバイスまでもらって。好評連載第6回は、生死の境をさまよいながら国境の川を越え、広い世界にたどりつくまでのドキュメント。いまも...
記事全文を読む→2014年の暮れ、ヨンヒは張哲九平壌商業大学を卒業する。建設労働に駆り出されたため2年半も遅れた。それでも名門大卒の経歴を得たことはうれしかった。晴れやかな記念写真を撮り、同級生らと和気あいあいの卒業パーティーもやった。だが、北朝鮮に職業選...
記事全文を読む→たまにヨンヒが口ずさむ歌に「ツバキの花一輪」がある。2003年に朝鮮中央テレビで放送された連続ドラマ「漢拏のこだま」の挿入歌だ。何度も再放送され、DVDまで発売されたこのドラマ、いわゆる「済州島4.3事件」が題材になっている。1948年4月...
記事全文を読む→ようやく祖母の眼鏡にかなったブローカーが見つかる。2013年の夏、海州にいる祖母が娘一家の暮らす平壌にやってくる。いつもとどこか雰囲気が違った。「『ヨニちゃん(ヨンヒの愛称)、おばあちゃん、この国を出ることにしたの。一緒に行かないか』って。...
記事全文を読む→韓国でも日本でも行列店となった「ソルヌン」。その味のルーツである済州島生まれのヨンヒの祖母が脱北する。デノミの導入で、稼いだ金は一夜にして紙くずになり、金正恩への怒りは収まらなかった。だが、祖母の試みは失敗‥‥。ついにヨンヒが脱北を決意する...
記事全文を読む→小泉進次郎氏が防衛相に就任した矢先の10月22日、北朝鮮が久々に弾道ミサイルを発射した。首都・平壌に近い地域から、北東方向へ数発。およそ350キロ飛行し、北朝鮮北東部に着弾した。「日本の領海や排他的経済水域(EEZ)への飛来は確認されていな...
記事全文を読む→2013年8月、そんなヨンヒを震え上がらせるできごとが起こる。銀河水管弦楽団をめぐるスキャンダルである。金正恩の妻、李雪主も歌手時代に所属していた人気楽団だ。「夕方、急に学内放送で4年生は姜健総合軍官学校に集まるように指示がありました。姜健...
記事全文を読む→ヨンヒの恋はあっけなく終わる。日々、マンション建設に動員され、ろくに勉強もできなかったが、たまの休み、ソンオクと過ごす時間は楽しかった。2012年の秋、平壌八景のひとつ、牡丹峰にある乙密台がその舞台となった。2人は楼閣のそばで夕暮れ迫る大同...
記事全文を読む→平壌でヨンヒは恋人にめぐりあう。彼は次世代をになうエリート科学者だった。しかもルーツは同じ在日。建設労働はむなしくても、デートは楽しかった。だが、2人に突然の別れが訪れる。そして再び目にする残忍な処刑‥‥。好評連載第4回は孤独を深めていくヨ...
記事全文を読む→金正恩総書記の娘、ジュエ氏が「姿を消した」として、米韓日の情報関係者の間で波紋が広がっている。10月10日に行われた朝鮮労働党創建80年の軍事パレードは、北朝鮮が国家の威信を誇示する最大級のイベントだ。ところが、2年前の同パレードで世界の注...
記事全文を読む→最愛の父の死。後ろ盾を失い、ヨンヒの前途は曇りだす。だが、涙にくれるいとまもなく、またも命令が下る。平壌の10万世帯マンション建設にエリート学生も駆り出されることになった。金日成生誕100年を迎える2012年4月15日までに完工せよ、と。さ...
記事全文を読む→10月に入ると、新しい命令が下る。こんどは革命の聖地・白頭山の踏査だという。金日成率いる抗日パルチザンゆかりの戦跡地を赤旗を掲げ、行軍スタイルでめぐり歩くのだ。標高2744メートル、朝鮮半島の最高峰を極める登山はただでさえつらい。しかも山頂...
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