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Posted on 2019年08月22日 05:59

「第66回夏の甲子園」KKコンビに挑んだ「もう1つの金農旋風」

2019年08月22日 05:59

 アナタは“金農旋風”をご存知だろうか?といっても、吉田輝星(北海道日本ハム)を擁して昨年夏に甲子園準優勝に輝いた金足農(秋田)のことではない。今から35年前に“もう一つの金農旋風”があったのだ。

 1984年第66回夏の選手権準決勝。前年夏の覇者・PL学園(大阪)が追いつめられていた。桑田真澄&清原和博(ともに元・読売など)の“KKコンビ”が2年生だった時のチームである。試合は7回を終わって1‐2とPLが1点のビハインド。夏の大会2連覇を狙う王者相手に、世紀の番狂わせまであと2回と迫っていたのは全国的には無名の初出場校・秋田県代表の金足農であった。

 同校はこの年の春選抜で春夏を通じて甲子園初出場を果たしたこともあって、夏の県予選では本命視されていた。そしてみごと夏も甲子園行きを決める。甲子園では初戦から広島商を6‐3、別府商(現・別府翔青=大分)を5‐3、唐津商(佐賀)を6‐4、新潟南を6‐0と勝ち上がってきた。その原動力となったのが県内では中学時代から速球で有名だったというエース・水沢博文。金足農はこの水沢を慕って地元で評判の選手が集まったチームだったのだ。

 それでも戦前の予想は当然のように“圧倒的にPL有利”。だが、その下馬評を水沢の右腕が覆していく。初回にいきなり先制点を取れたのも大きかった。金足農は2死二塁から4番・長谷川寿の打球が不規則なバウンドのラッキーなヒットとなって1点を先制。投げては水沢が3回まで強打のPL打線を3四死球のノーヒットに抑える。4回裏の2死から6番・北口正光に左前へ初安打され、7番・岩田徹にも死球とピンチを招いたが、水沢が巧みなけん制球で一塁走者を刺し、得点を許さなかった。

 PL打線がようやく反撃したのは6回裏だった。1死一、二塁から6番・北口がライト線に運ぶ適時打を放ち、なんとか1‐1の同点に追いついたのである。それでも金足農は水沢が踏ん張り、後続を抑える。こうして試合は同点となって終盤へと突入していったのだ。

 その7回表。取られた直後に金足農がすかさず1点の勝ち越しに成功する。2死ながら二塁に走者を置き、7番・原田好二がピッチャー・桑田を強襲する適時打を放ったのだ。その裏のPLの攻撃も水沢が3者凡退に抑える。実は水沢は当時の高校生投手にしては珍しくシュートを得意としていた。PLの各打者たちは内角を突くシュートを意識するぶん、外角へのスライダーやカーブに泳いだ。水沢とバッテリーを組む捕手・長谷川の好リードにも翻弄され、狙い球を絞りきれずにいた。7回まで三振0ながら築かれる凡打の山。甲子園に詰め掛けた大観衆の間には“ここでPLが敗れてしまうのか”という緊張感がすでに走っていた。そんな中でついに運命の8回裏を迎えることとなるのである。

 この回、1死から水沢は4番・清原を四球で歩かせてしまう。続く打席には桑田。ここまでの3打席はカーブを引っ掛けさせて打ち取っている。この場面で金足農の捕手・長谷川はこう考えた。「カーブのボール球で誘っておいて、そのあとの内角真っすぐで詰まらせる。もし、カーブに手を出してきても、ボール球なら引っ掛けてくれる」。初球は外角の直球でストライク。そして2球目。サインはカーブのボール球である。だが、この土壇場で準々決勝までの4試合をほぼ一人で投げ抜いてきた右腕のコントロールが狂った。すっぽぬけたボールが魅入られるようにやや外角高めのストライクソーンへ。一方、桑田は監督からの指示もあり、完全にカーブに的を絞っていた。その桑田のバットが一閃。高く舞い上がった打球は一直線にレフトポールの上を超えていく。長谷川からは「ファウルに見えた」打球だったが、塁審の手は回っていた。PLにとっては起死回生の特大逆転2ラン。これぞまさに王者の底力であった。

 最後の最後で大ドンデン返しを食らった金足農に、もはや反撃する力は残っていなかった。9回表の攻撃はあっさりと3人で終了。だがヒット数ではPLの5本に対して金足農は8本。その健闘を讃えた場内からの温かい拍手はしばらくの間、鳴り止むことはなかったのである。

 かたや、苦戦の末に2年連続決勝戦進出を果たしたPL。2連覇は確実と思われたが、名将・木内幸男率いる取手二(茨城)相手に決勝戦も大接戦。結果、延長10回の激闘の果てに4‐8で惜敗し、V2を逃したのであった。

(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=

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