2006年に日本代表の監督に就任し、日本サッカーに多くの財産を残したイビチャ・オシム氏。含蓄のある「オシムの言葉」は、サッカーファン以外からも親しまれた。
そんなオシム監督の指導法は他の監督とは違っていたと、鈴木啓太氏が明らかにした。鈴木氏はオシム監督によって、初めてA代表に招集された、いわば愛弟子だ。前園真聖氏のYouTubeチャンネルで、オシム監督を次のように評している。
「いろんな意味ですごい。パニックですよ。トレーニングもそうですけど、トレーニングの前から考えないといけない。代表合宿でスケジュールがないんですよ。普通はスケジュールが貼り出されるのに、『トレーニング 00時』って書いてあるだけ。その時間に行くと『00時から飯な』って。普通はスケジュール表を見て行動するのに、(オシムジャパンでは)予定がわからない」
これを聞いた前園氏は驚くが、理由を聞くと鈴木氏は言った。
「(オシム監督の考えは)『スケジュールが決まっていると、お前ら別のことを考えるだろ。サッカーに集中しなさい』ということ。次に何が起こるかわからないのはサッカーも一緒で、ピッチの中で筋書きやシナリオはない。予定は決まってないだろ、と。常に試合のことを想定しろ、ということ」
オシム監督はルーティーンになると考えなくなるため、それを嫌い、ジェフ市原・千葉では次の日の練習で何をやるのかが決まっていなかった。その日の選手の状態を見て、決めていたという。
さすがに試合の当日はスケジュールがあるが、出場メンバーは会場に行くまで明らかにされない、異例の対応。通常であれば前日の練習で、スタメン組とサブ組に分かれるのでなんとなくわかるものだが、オシム監督は違ったと、鈴木氏は言うのだ。
「僕はスタメンではない組でずっと練習していた。試合の当日、スタジアムに行って、僕はちょっと気が抜けている。ロッカールームで着替え始めるとコーチが来て、肩を叩いて『お前、スタメンな』ってスタメンの選手にひとりずつ言っていくんです。僕も叩かれてスタメンだと言われて『えっ、スタメンなの!?』みたいな。だから誰が試合に出るか、全くわからない。全員準備しろということなんです」
そんな指導法をとるのはオシム監督だけだった。この話を聞くと、もし病に倒れず、あのまま日本代表を率いていたら…と思わずにはいられない。
(鈴木誠)